文責:ジェムコ日本経営 常務執行役員 宮北大嗣
◆派遣雇用に注意、同一労働同一賃金が原則、直接雇用の必要性も 

中国での人件費の高騰問題は、中国で操業する日系各社にとって、事業戦略の見直しを迫っているが、それに追い討ちをかけるように、昨年
20121228日に改定公布され、201371日から施行された中国労働契約法の改定は、さらなる人件費負担の増を強いるものになる。

この改定では、派遣形態の雇用の規制を強化し、通常の直接雇用契約の抜け穴として派遣雇用が使用されることを防ぐことに主眼が置かれており、これらへの対応は、人件費の増に結び付くと言える。

中国労働契約法の主な改定箇所は次の3点。

1.労務派遣業務の経営要件が厳格化(第57条)

2.同一の労働をした場合、派遣か直接雇用かで賃金を差別してはならない(第63条)

3.直接労働雇用が原則であり、労務派遣が認められる場合を限定(第66条)

この中で、中国に進出している日系企業が影響を受けるのは「第63条 同一労働同一賃金原則」と「第66条 労務派遣雇用の限定」の改定である。
63条 同一労働・同一報酬の徹底

被派遣労働者は雇用単位(派遣先)の労働者と同一労働・同一報酬の権利を有する。

雇用単位(派遣先)は同一労働報酬の原則に照らして、被派遣労働者と当該単位の同種の職場の労働者に対し、同一の労働報酬配分方法を実行しなければならない。

以下省略。

下線部分が新たに追加された箇所である。

工場の現場のように、同じラインで全く同じ成果が出る業務であれば同一労働は分かりやすいが、営業や創造的労働である設計業務などの場合において、同一労働かどうかを判別する基準を設けることは、正直極めて難しい。上記のように同一労働・同一報酬の原則が明文化された中国では、被派遣労働者と直接雇用労働者との報酬格差をつけるには、差をつける合理的な理由が必要だ。もし、合理的な理由が説明できない場合には、同一労働・同一報酬原則に違反しているということから、不合理な未払い賃金が存在するという訴訟を起こされるリスクが生じる。これを回避するために、被派遣労働者の賃金を上げざるを得ないことになる。
66条 労務派遣雇用の限定

労働契約雇用は我国の企業の基本的雇用形式である。労働派遣雇用は補充的な形態であり、臨時的、補充的または代替的な職務においてのみ実施することができる。

前項で規定する臨時的な職務は、存続期間が6ヶ月を超えない職務、補充的な職務は主要業務の職務にサービスを提供する非主要業務、代替的な職務は雇用単位(派遣先)の労働者が学習、休暇などの原因で職場を離れて業務に従事できない一定期間内において、その他の労働者に代替できる職務である。

雇用単位(派遣先)は労務派遣雇用人数を厳格に抑制し、雇用者総数の一定比率を超えてはならない。具体的な比率は国務院労働行政部門が規定する。
下線部分が新たに追加された箇所。

改定前の第66条は「労務派遣雇用は、通常は臨時的、補充的あるいは代替的な職務において実施する。」となっていたが、今回の改定で「通常は」の言葉が削除された。

今までは第66条は緩やかに運用されていたが、今回は厳格に運用される懸念があり、特に「補充的な職務」の解釈が問題になる。バックオフィスの業務に限らず、営業のような主要業務でも派遣会社を利用している会社は極めて多く、今後人材を確保し、現在の業務を維持するためには、直接雇用に変える必要もでてくる。

いずれの改定についても、今後通達される労働行政部門や地方政府関係機関からの指針に注意を払う必要があるが、派遣雇用を活用するということが難しくなってきていることも踏まえ、これらへの対応による人件費負担増も踏まえた対応策の検討がさらに必要となってくる。

各社の中国拠点戦略の見直しはさらに加速するものと思われる。