文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、海外でよく発生する盗難問題について述べた。

今回は、7月20日に問題発覚して騒動になった、上海の食品加工会社の消費期限切れ肉の使用事件について、感じたことを述べたい。

今回の事件は、「国民性を踏まえた対応の必要性」を示唆する事件であり、この国民性を踏まえた対応には、以前述べた生産条件の違いを踏まえた生産方式の検討と同じような検討が大切なことを示しているとも言える。今回は、これらへの対応について述べることにする。

 

◆各国の国民性の違いとそれを踏まえた対応について

 国民性の違いについては、先日、取材を受けたので、筆者が経験した具体的な事例については、記事が掲載された際に見ていただくとして(もっとも、どれだけ掲載されるかはわからないが)、我々、グローバル事業を展開する者としては、各国の国民性の違いを踏まえたオペレーションが大切なので、その視点で今回の事件を見てみたい。

 今回の上海の食品加工会社での事件は、自分の利益のみを考えるという国民性がよく表れている。どうしても、人口が多く競争が激しい国では自分の利益を優先せざるをえないという背景がある。そこに、少しでも道徳観があれば別だが、このあたりは、宗教や育った環境にもよるので、それらも踏まえて対応を考える必要があるということだ。それでは、このような国民性の国ではどのような仕組みを検討する必要があるだろうか。考え方は、以前述べた海外に進出する場合の生産方式の検討方法と同じだ。各国で生産する場合、その国の生産条件の違いを踏まえてリスクを抽出し、それに対応した生産システムを構築するということだが、今回の食品の安全確保という視点では、どんなリスクがあり、それに対し、どんな対策が必要だったであろうか。

 先ず、自分の利益だけを考えるということからすると、どんなリスクが考えられるかすべて抽出することが必要だ。このリスクの抽出は、徹底して性悪説で検討することがすべてのリスクを抽出するという上では大切だ。原材料という視点で見てみれば、有害物質が入っていようが、不衛生だろうが、カビが生えていようが、お客がわからなければ、安く仕入れられる肉ならどんな肉でも良いと考える可能性がある。当然のことながら、原材料についての検査基準については、それをいかにごまかすかということも考えられる。また、製造工程では、さらに安くするためには、何かしらの混ぜものができないかと考えてもおかしくない。不良品を作っても廃棄せずそのまま使うということも考えられる。すなわち、これらのリスクに対して、どのような対策を打つかが大切ということだ。原材料をチェックする仕組み、工程に指定のもの以外が入らない仕組み、不良品を再投入できない仕組み等が大切ということになる。ちなみに、検査やチェックを真に正しく行なうには、その企業の社員では難しいケースも多い。利害関係のない全く別の企業に依頼し、もし見逃せば大きな罰則がかかるというような仕組みの方が効果は高い。利益を重視する以上、自社の従業員が不良を見つけても隠ぺいしたり、安くせよという交渉はしても、それを使わないという判断がされることは難しいからだ。実際、日本の輸入業者が確実な品質の品を入れようとすれば、常時日本の輸入業者の人間が検査やチェックの仕事をするというやり方を検討するのも方法だ。

 ところで、今回の対策として、日本の購入側の企業は監査やチェックを厳しくするという対策見解を述べているところがあるが、これは、監査やチェック日以外の日に具合が悪い材料は使ってしまえばよいだけで、監査やチェックでいかに見つからないようにするかという取り組みがされれば、効果はほとんど期待できないことになる。

また、このようなことは生産現場だけに発生するとは限らない。流通過程にも発生する可能性がある。もっと粗悪な材料を使っているものと流通段階で取り換えることで、取り換えた商品を日本向けの安全な食品として国内で高く売ろうという考え方をするものもありうる。そうなると、流通でこのような粗悪品と入れ替えられないような対策も必要ということになる。実際、偽物が横行している国では、本物と偽物をいかに見分けられるように対策しておくかは大切なことだ。

 このように、先ずは、考えられるリスクをすべて抽出した上で、従業員の教育を含めて具体的な対策を織り込むことが大切と言える。ちなみに、中国だからすべて信用できないということではない。徹底した教育がなされ、極めて信頼性の高い品質を確保されている企業も多い。それらの企業は、これらのリスクをいかに摘み取るか、そのために何が必要かを検討され、対策を積み上げられてきていると言える。


◆産地はブランドイメージにも大きく影響する

 ところで、各産地の国民性やその国の特質は、そのままブランドイメージに直結している。安心・安全な産地のものは、大きくその産地名が表示されるだけで、訴求ポイントになり価値を向上させている。逆に、残念なことだが、中国産の○○という表示はそれだけでブランドイメージを低下させることになっている。すべての中国産に問題がある訳ではないものの、過去からの多くの事例がこれらのイメージを作り出している。ブランド戦略として大切なことは、○○企業の□□というように、その企業であれば、中国産と言えども、きちんとしたリスクを抽出し、適切な対策を打たれており信頼できる企業というイメージが作れるようにすることだ。それをするためには、単に監査・チェック体制を強化しましたとか、弊社では管理基準を定め、これに基づいてチェックしているので安全ですというレベルの話しでは、真の対策が打てているとは言えず、逆にブランド力を低下させることにもなるということだ。国民性の違いを踏まえた対応ということも考える必要があるのではないかと思う。