【JEMCO通信】 ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部/広報室 編集

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カテゴリ: 2.「グローバル展開」の現場から

文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

  前前回は、海外拠点の経営幹部として、赴任前に最低限、身に付けておくべき事項の一つ目として、経営の基本についての理解の重要性を述べた。

今回は、各国で仕事をさせていただくという立場から、各国の事情や文化・宗教等についての事前の理解の大切さについて述べたい。


◆その国の常識を知らないと大変な事態になることは多い

 以前、このコラムの中の「人の現地化」の中で、タイのある拠点で発生した事例を紹介した。それは、日本人出向者が、人事異動に関する説明をするのに、王様を引用して説明したのだが、説明の仕方の悪さもあり、これが不敬発言だとして、従業員から残業拒否、さらには、ストライキに入るという事態にまで発展。事業継続のために、最終、その出向者を帰任させることで収拾せざるをえなくなったという事例だ。タイでは国民の誰もが王様を尊敬している。その当たり前の感覚が不足していると、このような大変な事態を招いてしまうということだ。

また、インドをはじめとした新興国では、売掛金回収問題で苦労された企業も多い。販売したら支払ってくれるというのは日本の常識だが、国によっては、いかに支払いを先延ばしするか、支払わずにすませるかを考えるのが当たり前という国もある。その常識がわかっていないと、売掛金の回収ができず、資金繰りが回らないという事態に追い込まれてしまうということも発生する。

それぞれの国には、それぞれの文化や歴史があり、また、宗教も違う。日本では、無宗教の人も多く、宗教を軽んじる人も多いが、それぞれの国で根付いた宗教を理解せずに、それを無視した言動をすると事業ができなくなるという事態に陥ることは多い。

 その国で生活する上でも日本の常識は通用しないことが多い。チップを支払う習慣の無い日本人は、その国の人からは非常識な人とみられる。また、生活する上で、日本は拳銃の所持そのものが禁止されているが、自分の安全を守るという視点では拳銃を持つのは当たり前という国もある。また、食事をすれば目上の人が支払うのが当たり前で、割り勘というようなことを言いだすと驚かれるケースもある。宗教で禁止されている食べ物や期間があったりもする。飲酒もそうだ。それぞれの国でものの考え方も違うということであり、その国で暮らすには、その国の常識を理解して生活することが必要だ。

ところで、ここまで、各国で文化や宗教が異なるにもかかわらず、事前にこれらの教育がされていないというケースが意外に多い。仕事の引き継ぎは行なわれるが、このような、その国ならではの注意すべき事情が引き継がれていないことも多い。

 そういう意味では、出向者人材の育成には、赴任候補先が決まったら、その国の文化や習慣、宗教をはじめとした、その国の常識を勉強できる機会を作ることが大切だ。これらの勉強方法だが、一つには、日本在外企業協会はじめ、各国の事情や、問題発生事例等を記載した本や資料も多く出されているので、これらを活用して勉強すると共に、可能であれば、日本の文化や考え方をよく知っている外国人の方に、その国で日本人が注意すべき点を教えてもらう場を作ることは有効だ。ある企業では、日系企業での勤務経験のある留学生に来てもらい、赴任国の文化や考え方、また、日本人の考え方との相違点を説明してもらい、日本人が注意すべき点を赴任前研修の中で行なわれている。実際、受講者からは多くの質問が出されるが、事前に、このような事情が理解できるだけで、赴任してから、ローカルの皆さんとの接し方や信頼関係の構築に、大きな効果があると共に、赴任にあたっての不安解消にも役立っている。もっとも、赴任先が多くの国にわたると、そのような場を設けることが難しいというケースもあるが、実は、留学生のネットワーク等を活用することで、結構、多くの国の方にお国事情を聞く機会を作ることは可能である。

 また、生活という視点では、以前、その国に赴任した経験のある家族から生活上注意すべき点を聞くというのも有効だ。仕事の話しだけではなく、生活上の情報も入手することで、赴任者は安心して赴任することができ、事前の心構えもできることになる。また、それらの情報をまとめるだけで、その国で生活する上で注意すべきことや、日本から持参する方がよいもの等をまとめた情報ブックが作成できる。各企業では、これらの情報を集めて一元的に管理することは大変有効なことだ。家族帯同で赴任する場合には、これらの情報を家族にも伝えることで家族の不安を少しでも取り除くことができる。

 グローバル化が加速する中で、これらの情報を積み上げていくだけでも貴重なノウハウにすることができるということだ。


◆その国で仕事をさせていただくという姿勢が大切

 ところで、筆者が海外出向される方を対象とした研修でいつも申し上げていることであるが、一番大切なことは、「その国で仕事をさせていただく」という姿勢を忘れないということだ。実は、海外拠点を訪問させていただくと、ローカルの皆さんをバカにしたような発言をされる方がある。「彼らでは、言ってもわかるはずはない」というような発言だ。その国で拠点を設立して仕事をさせていただく以上、ローカルの皆さんの力がなければ事業は成り立たない。また、その国で事業をさせていただく以上、何かしら、その国に貢献できないようでは、進出する価値はない。その国で、その場所を借りて、また、その国の方々の力を借りて事業をさせていただいているということであり、その基本姿勢を忘れては具合が悪いということだ。

その国を愛し、発展に向けてどうお役立ちできるかを考えることが、その国に受け入れてもらうことができる基本である。常に、この姿勢を忘れなければ、わからないことはローカルメンバーに教えてもらうという姿勢ができ、色々と教えてもらうことで信頼関係と共に、その国の常識を踏まえた行動もできることになる。

現地に赴任すると、どうしても日本人は上位の職につく場合が大半だ。しかし、現地で仕事をさせていただく以上、常に、ローカルの方に教えてもらうという姿勢を忘れてはならないということだ。この姿勢を持ち続ける限り、大きな問題に陥るということは避けられる可能性が高い。出向いただく方には、是非、この姿勢だけは徹底していただきたい。


 日本の市場がシュリンクする中で、グローバル事業の拡大が成長戦略の鍵を握る以上、それを成功に導く鍵は、出向者人材の育成にかかっている。海外展開の計画の裏側には、出向者人材の育成計画が表裏一体として計画されていなければならないということだ。グローバルで事業を成功させるために、各社が適切な出向者人材の育成に取り組まれることを期待したい。

 ちなみに、ジェムコ日本経営では、海外出向される方々を対象とした教育支援も多く実施させていただいていることを申し添えておく。


2013年8月から、この「グローバル展開の現場から」のコラムを担当させていただきましたが、このコラムの執筆を担当させていただくのは、今回を最後とさせていただきます。長期間に渡ってご愛読いただきましたことに感謝申し上げます。グローバル展開無くして事業の発展はできない環境です。皆様のさらなるグローバルでのご発展とご活躍を心よりお祈りしています。

高橋功吉


文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

  2016年がスタートした。今回は、連載中の内容は次回にして、2016年のグローバルでの事業展開課題の一端について述べることにする。

年末になると、いつも注目している調査結果が発表される。一つは、四半期単位で日本経済新聞社が行なっている社長100人アンケート*1だ。毎年年末に発表される内容は、来年について主要な企業のトップがどう考えているかの調査結果が発表される。来年に向けての事業課題や投資意向等を把握するにはよい調査資料だ。また、もう一つ、注目しているのは、毎年12月にジェトロから発表される「アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」*2だ。これは、アジア・オセアニア地区に進出している5000社近い企業の回答をまとめたもので、主要国の状況や課題を把握するには、大変よい調査資料である。



◆中国拠点の方向付け

 ところで、昨年末に発表されたこれらの調査結果を見ると、社長100人アンケートでは、国内景気については1年後ということでは、①よくなっている②改善の兆しが出ているとの回答を合計すると77.9%と、大半の経営者がよい方向に向かうとしている。しかし、そのような中で、やはり懸念事項としては、中国経済の動向と言える。中国の景気の現状をどのように認識しているかという質問に対しては、④緩やかながら悪化している⑤急速に悪化しているを合計すると、53.4%の経営者が悪化してきていると認識。さらに中国経済減速による経営影響としては、④ややマイナスと⑤マイナスを合計すると67.6%を占めており、影響内容としては、中国での販売減少、中国への輸出の減少のみならず、中国の工場の生産縮小を上げている企業も26.5%にのぼる。ところで、ジェトロが昨年12月22日に発表した「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」をみると、回答した中国進出企業874社では、過去1年での従業員数の変化では、1/3近くの32.8%の企業で現地従業員数は減少と回答している。増加したところが22.9%あるものの、これらを見ると、明らかに、中国での生産規模の縮小、拠点の縮小が加速していると推察される。

この背景には、中国経済の減速ということだけではなく、人件費の高騰が実は大きな要因となっている。上海の最低賃金を例にとると、2010年には1120元だったものが、2015年には2020元と、この5年で倍近くになった。ジェトロの同調査でも、経営上の問題のトップは従業員の賃金上昇となっているが、アジア・オセアニアのすべての国の中で、賃金上昇を経営問題としてあげた企業は中国の84.3%がトップとなっている。実際、中国の日系企業では人件費の高騰と共に年々利益が大幅に悪化。生産品目の見直し、さらには、事業構造の変革に迫られている企業は多い。特に、製造業の中でも、繊維や食品といった労働集約型の企業は、赤字に陥っているところが多く、ジェトロの同調査の中国編を見ると、2015年度の見通しとしては、繊維では38.5%、また、食料品では38.1%の企業が赤字の見通しとなっている。

また、中国を輸出拠点にしていた企業は、その役割をASEAN等にシフトするなど、グローバルでの供給拠点戦略の見直しを迫られた企業は多く、労働集約型の生産品目をやめ、中国市場向けの高付加価値商品にシフトするなど、事業戦略そのものの見直しが加速している。


◆ASEANでは、投資したい国はインドネシア、タイだが・・・

 さて、中国に対し、東南アジアへの投資拡大意向は強い。社長100人アンケートの中で、「東南アジアでの事業規模を中長期的にどうされますか」という質問に対しては、拡大するが51.0%、やや拡大するが26.3%と、77%もの企業が拡大を目論んでいる。この背景には、中国市場の動向や中国での人件費高騰問題もあるが、昨年末に発足したAEC(ASEAN経済共同体)の発足も一つのビジネスチャンスと捉えている企業も多い。ASEAN諸国の中で重点的に投資したい国としては、1位がインドネシアの35.9%。2位がタイの30.3%、3位がベトナムの22.1%となっており、この3国が突出している。確かに、ASEAN最大の人口を抱えるのはインドネシアであり、市場という意味でも当然と言える。また、人件費では、まだベトナムは他国と比較すると安いのも事実だ。しかし、これらの国でも、大きな問題は、中国同様の賃金上昇である。特に、インドネシアやベトナムは人件費の上昇が激しい。例えばベトナムでは、ハノイやホーチミンといった地域1で、2011年に155万ドンだった最低賃金が2015年には310万ドンと4年でちょうど倍になった。インドネシアも、地区によって異なるが、例えば、ブカシ県であれば、2011年には1286千ルピアだったものが、2015年には2925千ルピアと、この4年間で、2.3倍になっている。実際、ジェトロの同調査結果を見ると、経営上の問題点としての賃金上昇については、インドネシアが中国に続いて80.5%、また、ベトナムが3位で77.9%となっており、実は、中国と同様の課題を抱えているということだ。

すなわち、現在は、人件費率が15%程度の企業でも、4年も経つと、人件費率は30%を超えることになってしまうということであり、早晩、今のままでは、中国と同様、事業が立ち行かなくなる可能性が高いということだ。

◆◆日本のものづくりが試される時

 さて、2016年のグローバル事業展開ということでは、これらの環境変化からも明らかなように、さらなる製造拠点戦略の見直しが必要になってくるということであり、いかにスピードを持って対応するかが鍵になる。対応が遅れると、それだけで赤字に転落すると共に、大幅な赤字拡大という事態を招くことになる。また、ミャンマーをはじめ、さらに人件費の安い地域への展開やシフトということもあるが、併せて重要なことは、いよいよ、日本のものづくりの真髄が試されるタイミングになったのではないかということだ。すなわち、新たな工法開発を含め、日本のお家芸だったものづくりの進化が、グローバルでどれだけ展開できるかという時期になったということではないだろうか。

すでに、中国などでの工作機や生産設備の展示会では、おもちゃのようなものも多いが、ロボットの展示が増えている。ロボット化、自動化が必須になっているということが背景ということなのだが、日本のものづくりは、単にロボット化だけではなく、そこに、新たな工法を織り込むことで、どうやって作ったのだろうかと言わせる「ものづくり技術」があった。品物を見ればこういうものだとわかるが、どうやって作るのかわからないようなものであると簡単には真似はできない。このことは、以前、コラムの中でも記載したことがあるが、実は、ものづくりのブラックボックス化は日本のお家芸の一つだったはずだ。

どの拠点も、人件費は高騰している。それを凌駕できるものづくりが、これからの日本がグローバルで生き残るためには重要になるが、2016年のグローバル展開の中には、ものづくりをどう進化させるのかというシナリオも大切になるのではないだろうか。新たな工法開発を含めて、日本のものづくりが試される時が来たと言えるのではないだろうか。



*1上記文面の中の日本経済新聞社の社長100人アンケートの調査結果は、2015年12月21日付けの日経産業新聞に掲載されたものから引用。

*2ジェトロの「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」及び「同中国編」は、下記サイトより引用。

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2015/01/4be53510035c0688.html

https://www.jetro.go.jp/world/reports/2015/01/0b534b5d88fcc897.html



文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

 前回は、海外拠点での経営問題を見ると、人災と言ってもおかしくないのではという事項が多く、そういう意味では、出向者人材の育成が極めて重要なのだが、現実を見ると計画的な育成には難しさがあることを述べた。また、出向候補者の選定としては、単に能力だけで判断するのではなく、異文化で仕事をする資質があるか否かが重要であることを述べた。

 今回は、資質のある人材を選定した上で、海外拠点の経営幹部として、赴任前に最低限、身に付けておくべき事項について述べることにする。


◆赴任前研修が真に有効なものになっているか

 赴任前研修や出向候補者研修を行なわれている企業は多い。

実際、海外での仕事に順応できる資質のある人でも、不安事項は多く、それは、異文化の国で仕事をすることへの不安だけではなく、仕事の範囲が大幅に広がることから、未経験の仕事に対する不安と共に、海外の場合は、教えてもらえる人が近くにいないということも背景にある。それだけに、赴任前の研修は極めて重要と言える。しかし、研修内容を見せていただくと、これでよいのかというものが意外に多い。失礼な言い方だが、研修メニューそのものが、経営を担った経験のない人や、海外出向したこともない人が企画したのではないかという内容になっていることが多いからだ。

 それでは、海外での経営を担う立場として、最低でも理解しておく必要のある事項としては、どんなことがあるだろうか。一つには、経営を担う立場である以上、経営の基本についての理解である。これが身に付いていなくては、適切な経営判断や経営の舵取りは難しい。ベースはキャッシュフローへの理解と、具体的な推進方法の理解が必須だ。また、成り行き経営にしないためには、経営計画の策定や日常の経営推進管理といった事項も理解しておく必要がある。さらに、海外では日本の常識は非常識ということも多い。その国で仕事をさせていただくという姿勢で仕事をすることが大切ということだが、海外での常識や海外でよくある問題を事前に理解していないと落とし穴にはまることもある。ローカルの皆さんとの接し方も含めて、先ずは、これら最低でも必要となる知識について、短期間で修得できるカリキュラムは、是非、用意しておきたい。


◆経営の基本としてのキャッシュフローへの理解

 今回は、先ず、それらの中から経営の基本への理解ということについて述べる。

海外出向すると、大抵、役職は1~2階級上になると共に、経営全般を担う立場になることが大半だ。さらに、海外拠点は日本の中の一工場ではなく、独立した法人ということになる。税務調査が入ることもあれば、労使協議等も独立した会社として対応が必要になる。

 今までは、本社のメンバーがやってくれていたというようなことも、自分の責任で行なうことが必要になる。

例えば、資金繰りだ。資金繰りなどは、本社の財務部門や経理部門がやってくれていたことで、今までは、そんなことは知る必要がなかったかもしれない。実際、自分の財布にはいくらお金が入っているかは知っていても、会社にいくらお金があるかは知る必要もなかったという人は多い。しかし、独立した会社ということになると、そうはいかない。資金ショートすれば、倒産ということになりかねない。従業員への給与の支払い、調達先への支払い等で苦労したことなどなかった人が、「資金不足で給与支払いができませんがどうしましょうか」とローカルの経理責任者に言われて、慌てふためいたというようなこともありうるからだ。

 そういう意味では、先ずは、経営の基本となる「キャッシュフロー」についての理解は必須と言える。どうするとお金が増やせるか、どうするとお金が減るか、誰もがわかっていそうな当たり前のことなのだが、意外に、この基本が理解されておらず苦労されている例は多い。もともと経営は、株主や金融機関等から調達したお金を使って、いかにキャッシュを生み出していくかということであり、そこで生み出したお金を使ってさらなる成長発展に向けて投資をし、さらに新たなお金を生み出すというのが、事業を存続発展させていく基本のサイクルになる。従って、ムダなお金の使い方をせず、キャッシュを生み出すには何に取り組む必要があるかという基本がわかっていないと、話しにならないということだ。ちなみに、誰もムダなお金の使い方などしているとは思っていない。しかし、例えば、売掛金であれば相手に無償でお金を貸しているのと同じであり、また、在庫はお金が物になって寝ている状態なので、借金をして調達したお金が売掛金や在庫になっているということは、それだけで金利を支払っているという感覚が持てることが大切なのだ。

 すなわち、どこからお金を調達し、そのお金を事業推進のための資産にどう換えたのかを示したものがB/Sであるが、先ずは、B/Sの中身がわからなくては、有効なお金の使い方にできているかもわからないことになる。

 どの企業でも利益については、うるさく言われており、大抵の人が理解している。しかし、B/Sやキャッシュフロー計算書などは見たことも無いという人が多い。これでは、経営を担うことは難しい。最低でも、資金の組立や利益の組立ができなければ、経営計画そのものの策定もできないし、また、日常の経営管理も難しい。実際、未回収の売掛金が多いにもかかわらず、利益しか見ておらず、利益が出ているにもかかわらず資金ショートに陥ったという事例もある。海外では、支払いを遅らせるのは当たり前という国は多く、日本の感覚で、売ったらお金を支払ってくれるものという感覚でいると、大変な事態になることがあるが、日頃からB/Sやキャッシュフロー計算書、資金繰り表から管理しておくべき事項がわかっていないと、このような事態にもなりかねない。

 先ずは、経営の基本としてのキャッシュフローについては、徹底して事前に勉強して赴任いただきたいということだ。

文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、グローバル本社機能として整備すべき事項について述べた。その前の回でも述べたが、海外拠点の経営がうまくいくか否かは出向者に起因することがほとんどだ。それだけに、定期的な監査や、管理帳票の見直しで問題を早期に発見して対策が打てるようにすることは重要なことだが、やはり、そのような問題を起こさず、経営の舵取りをするためには、出向者人材を適切に育成することが基本と言える。併せて、海外拠点がどんどん拡大する中で、出向させられる人がいないと悩まれている企業も多い。そういう意味では、いかに短時間で出向者人材を育成するかも課題と言える。今回からは、出向者人材をいかに育成するかということについて述べる。
 

◆計画的な育成とは言うものの実質的には無理

 海外出向すると、担当する分野が極めて広くなると共に、役職も日本での役職から1~2階級上になることが大半だ。当然、専門分野だけを知っていれば良いということにはならない。そういう意味では、計画的な育成を図るには、色々な部門の経験を積むことが必要であり、そのような育成ができればそれに越したことは無い。実際、将来を担うであろう人材を明確にして、ローテーション計画を立てられている企業もある。しかし、この方法は、ものすごく時間もかかると共に、実現できていないのが実態だ。筆者のご支援先でも、出向候補者人材のリストがあり、その育成計画が記載された計画書はあっても、各部門のニーズや、その人が抜けると業務に支障をきたすという理由で、結局は異動できないままになっているということが大半である。計画的なローテーションは、大抵、絵に描いた餅になっていることが多いということだ。

また、それ以上に多いのは、海外での拠点新設が急に前倒しになったり、急に出てきたりしているケースだ。これは、客先の要請によるということもあるし、そこに事業機会があると判断すれば、逸早く進出した方が得策という経営判断が働く場合も多い。そうなると、計画的な出向者の育成どころではなく、今すぐ出向させられる人材は誰かという話しが突然出てくる。

すなわち、計画的な育成が図れるのであれば、それに越したことは無いのだが、実質的には無理というのが現実の姿ではないだろうかということだ。

◆出向候補者の選定・・・先ずは資質があるか否か

 それでは、どうするとよいだろうか。出向候補者の選定にあたって、よくあるのは、出向先での仕事ができる人(できそうな人)ということで選定するケースが多い。しかし、これだけで選ぶと失敗することがある。一番大切なことは、海外出向者に求められる資質を備えているかということだ。実は、国内で優秀だから、海外でもできるとはならないケースが多いからだ。筆者の経験した事例では、優秀な経理責任者にもかかわらず、海外での生活が不安で、うつ病になってしまい、赴任直前に取り止めることにしたという例もある。また、出向したものの、その国の文化や風土が受け入れられず、いつ帰任できるだろうかということばかり考えて、ほとんど仕事ができていないというケースもある。
 そういう意味では、日本と異なる文化を受け入れ、また、多少のことでは動じない強いメンタリティを持っているということが海外出向者に求められる必要条件と言える。特に、赴任先が、日本と比較すると劣悪な環境にあるというような場合は、なおさらである。従って、選定にあたっては、仕事の内容という前に、先ずはこのような資質を持っている人かどうかで選ぶ必要があるということだ。


◆短時間で育成を図るには・・・先ずは何を事前に勉強する必要があるかを明確に

 さて、資質があるという人の中で、出向先の地位や仕事内容を踏まえて、それに対応できる人を選定することになる。その場合、出向者の地位や仕事内容から、出向者に求められる要件を明確にしておくと良い。その中で必要となる知識について、出向候補者が修得していないものについては、事前にそれを修得する場を用意することが必要となる。一般的には、一つには、経営責任者や、経営幹部として出向するケースが多いので、経営の基本とマネージメント、また、海外では日本の常識は通用しないので、異文化への理解と対応等については、最低でも理解しておく必要がある。(これについての詳細は、次回以降、述べることにする。)

 もう一つは、その事業を進める上での専門知識だ。例えば、品質や生産技術といった、独自の規格や専門知識が必要という場合は、それらを修得しておく必要がある。これらは、大抵は、それを専門とする部門に行って、現物や帳票、マニュアル等を見ながら、ポイントを学ぶ必要がある。いずれにしても、出向者に求められる能力や知識要件が整理されていれば、何を事前に修得しておく必要があるかはわかり、それを短時間で研修できるようにするということだ。

◆相談できる関係を築く

 ところで、そうは言っても、少しくらい研修しても、専門知識については、すぐに自分のものにするというのは難しい。研修で大切なことは、出向して事業推進をする際に、必要となる知識の引き出しを用意しておくということだ。すなわち、すべての分野の専門家になる必要はなく、その分野については、誰に聞けばよいかがわかっていれば、仕事はできるということなのだ。そういう意味では、研修にあたっては、このことは、誰に聞くとよいかという相談役を明確にして、気軽に相談できるような関係を築けるように配慮することが大切ということだ。そういうことであれば、短時間で、必要となる知識の引き出しが準備でき、海外に出向しても、何とか仕事はできるということになる。

 次回からは、経営幹部として、出向する人には、是非、理解しておいていただきたい事項について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

今まで、海外で発生する問題と対応について述べてきた。前回は、それらのまとめとして、本社機能の一つとして、監査と事前の出向者教育の重要性を述べたが、今回は、これらグローバル本社の機能として整備すべき事項について述べることにする。基本的に、グローバル本社機能としては、大きく、3つの機能が求められる。
 

◆1.管理・牽制機能

 一つは、管理・牽制機能である。これは、前回述べたことだが、海外拠点が日頃から管理すべき事項を、管理帳票として整備し、それを使って日頃からグローバルに管理推進する機能である。人災を防止すると共に、グローバルに計画に基づく経営推進を図るための基本として、これらの整備は重要だ。併せて、管理帳票と共に、事前の経営見通しを踏まえた先手の対策指導も行なえることが望ましい。グローバル各社が計画に基づく推進を図ることが連結での計画達成を図ることになるからだ。また、海外各社への投資が計画通りに回収できているかという投資回収管理も大切だ。課題会社がどこかを把握し適切な対応策を打ち出していくことが必要だが、これを把握するためのベースは、これらの管理ができていることが基本になる。また、前回述べた定期的な監査(経営監査や品質監査、環境監査等)で、帳票だけではわからない問題を、現場に出向いて確認することで事前に問題を発見し、早期に問題の芽を摘み取るようにすることも重要な機能である。


◆2.戦略機能

 二つ目の機能は、グローバル戦略機能である。常に経営環境は変化する。また、市場も変化する。課題拠点があるのに放置したままというのでは全社の足を引っ張ることになりかねない。また、グローバルに事業を拡大するためには、新たな市場獲得を目指した展開が必要不可欠である。新たな市場開拓、そのための供給拠点戦略、また、供給拠点の見直しや、既存拠点の統廃合を含めた再編等、常に時代変化を踏まえて的確な戦略を打ち出していくことが大切だ。そのためには、これらの戦略検討に必要な情報が整備されていることも重要だ。例えば、どの拠点で製造するといくらなのかといった原価情報一つがわからないのでは、供給拠点戦略を検討するのにも一苦労ということになる。これら常に戦略を見直し、また、検討していくための情報の整備も、適切な戦略を立案するためには大切ということだ。
 

◆3.サポート機能

 三つ目の機能は、グローバルサポート機能である。情報システムや法務、また、人事やものづくり等、各拠点へのサポート機能である。各拠点それぞれで、この機能を持つのは非効率であったり、難しいというものは、グローバル共通でのサポート機能があると有効だ。最近では、地域本社を設立する企業も増えてきたが、地域としての戦略の立案と共に、地域としてのサポート機能、財務センター機能等を地域本社に移管して、現地に即した迅速な意思決定や現地に即したサポート体制を築いていくということがその狙いである。実際、各国で法律も異なるし、また、労働環境も異なる中で人事制度や採用方法も変える必要がある。それぞれの地域で行なった方が有効ということが多いからだ。

◆内なる国際化の問題

 ところで、これらグローバル本社機能の整備と共に、やはり重要なことは、内なる国際化である。ある海外拠点K社社長の愚痴を紹介しよう。

「日本の各部署から、すべて日本語で、色々な資料を出せと私のところに送ってくる。現地語でとまでは言わないが、せめて書類は英語にしてくれれば、そのままローカルに渡せるが、すべて日本語では翻訳しなければならず、これらに対応していたのでは、まともに現地の経営もできない。しかも、送ってくる書類は、各事業部門別に、内容は同じようなものにもかかわらず、全部様式も違う。せめて、帳票はグローバル共通にして、ローカルメンバーがわかる様式にし、直接、日本の担当者はローカルメンバーとやりとりしてくれ。」

さて、皆さんの企業では、いかがであろうか。現地の出向者は単に日本との連絡窓口というようなことになっていないだろうか。グローバル化の加速には、経営の現地化の加速と共に、内なる国際化は必須条件となる。日本人が誰もいない海外拠点となれば、どうしないといけないかということだ。また、そのような状態で適切な経営推進を図るためには、グローバル本社としての管理・牽制機能等は必須ということになる。特に、海外拠点の増大に伴って、これらの体制構築が重要なタイミングになっている企業は多い。まだ、十分に整備ができていない企業は、意識してこれらの体制構築を推進されてはいかがだろうか。

文責:ジェムコ日本経営 常務理事 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

今まで、10回に渡って、海外で発生する問題と対応について述べてきた。今回は、これらのまとめとして、このような事態を発生させないために、本社機能の一つである監査と事前の教育の重要性について述べることにする。先般、日本を代表する大手の電機メーカーでの不正会計処理問題が話題になったが、これも、本来であれば、適切な監査機能が働いていれば防げたのではないかとも思われる。実際に色々な経営事故が発生する前に、その芽を摘んでおくことが、グローバルに経営推進する上で大切なことと言える。

◆管理事項の明確化

 いずれの企業も、海外各社の経営数値や品質データ等については、毎月確認している。しかし、それを見ているだけでは、問題に気付けないというケースは結構多い。いつの間にか滞留在庫を抱えていたり、また、滞留債権を抱えていたりしたりどうなるだろう。これらは、B/Sの数値だけを見ていても、内訳が記載されていなければ、在庫が少し多そうだなとか、売掛金が少し多いような気がするが・・・程度の気付きができればよいほうで、ある程度、計画の利益が計上できていれば問題無し、と見逃してしまうことが多い。実際、本社側で海外各社の管理をしている部門が、キャッシュフローをわかっておらず、売上と利益しか見ていなかったために、ある日突然、資金が回らないので、借入にあたって親元保証をして欲しいと依頼がきて、初めて不良債権の山になっているという問題に気付いたという事例もある。

このようなことにならないためには、海外子会社を管理する上で、何を管理すべきかを明確にしておくことが大切だ。また、これらは、日常、海外各社が管理事項として確認すべき事項でもある。例えば、滞留資産(定義が必要だが)の状況や、未回収債権の内容等は重要な管理事項として現地での管理と共に本社にも報告される必要がある。さらに、結果の決算では間に合わないので、先手で資金や利益の見通しを出し、事前に対策を打てる仕組みを作ることも大切だ。言い換えれば、これらの管理ができるように、先ずは、管理事項や管理の方法を明確にし、全社的に統一して管理できるようにすることが、大切と言える。


◆監査の重要性

 併せて、数字等の報告だけでは、適切な経営推進が図られているかどうかはわからないので、定期的に、現地に出向いて、現場・現物・現実で確認することが大切だ。実際、現場を確認してみると、適切な棚卸がされておらず、不明な在庫や、あるべきものがないということがあったり、協力企業に無償で支給している材料の管理が杜撰だったり、遊休設備が放置されていたり、固定資産台帳の整備が不十分だったり・・・と、経営数値には表れていない問題が発見されることが多い。また、それらを調べていくと不正が見つかることもある。J-SOX対応を含めて内部監査の体制を整えられている企業もあるが、正直、人材不足やコストもかかることから、現地の監査が適切に行なわれていない企業は多い。また、体制ができていても、監査内容が今ひとつという例もある。

 この原因には、経営の基本が理解されていないというケースが多い。例えば、キャッシュフロー経営の基本ということからすると、先ずは、B/Sの健全性を確認することが必要となり、現金の管理から売掛金の内容、棚卸資産の状況・・・と、現場でこれらをチェックしていく必要があるが、基本がわかっていないと場当たり的なチェックになってしまうからだ。また、海外でよくある問題を踏まえて、監査項目を設定しておくことも大切だ。

 

◆事前教育の重要性

 実際、グローバル化を図るには、経営の基本については、出向前の事前の教育と共に、グローバル本社としての役割を担う方々も含めて、しっかりと勉強する場を作ることが、海外で問題を発生させないためには重要と言える。今、ジェムコ日本経営では、海外出向される方々への研修を多数実施させていただいている。もし、これらが十分できていないと感じられる企業様は、是非、お声掛けいただきたい。海外で発生した数々の問題事例も交えて、経営の基本から工場運営の基本等、海外出向される方が身につけておくべき事項をおさえた研修になっている。


文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、安全について述べた。今回は、税務リスクについて述べることにする。これは、海外拠点ということだけの話しではなく、全社的に徹底すべきことなのだが、特に海外に赴任される方の中には、税務についての知識がないまま、税務調査で多額の追徴という事態に陥り、驚かれるということもある。税務の専門家ではなくても、海外で仕事をする以上、基本的な事項についてはおさえておきたい。
 

◆移転価格問題

 もともと、どの国でも税務調査に入る目的は、少しでも税金をとりたいという目的で調査が行なわれる。そこで先ずチェックされるのが移転価格だ。よくご存じの方も多いと思うが、日本を含めたグループ企業が存在し、グループ企業への取引がある場合、その取引価格の妥当性をチェックされる。例えば、グループ外の企業に100円で売られているものを、グループ企業には80円で販売していたとすれば、20円分の利益が移転されていると判断され、それらについては本来利益があったはずとして税金が追徴されることになる。うちの拠点は儲かっているからグループ企業には安く売ってあげても問題ないというような安易な判断をしてしまうと大変なことになるということだ。

ちなみに、移転価格の設定には、大きく次の3つが基本となる。

1.独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price Method)

2.再販売価格基準法(RP法:Resale Price method):

3.原価基準法(CP法:Cost Plus Method):

ここでは、これらの解説は省略するが、大切なことは、税務調査が入っても、それが適切な価格設定であることを示せるようにしておくことである。実際に、海外でも税務調査が入ると、資本関係を含めた関係企業のリスト、関係企業との取引内容等の資料の提示が求められる。そういう意味では、どの方法で移転価格を設定するのかを決め、それに基づいて価格設定がされるようにしておくことが望ましい。日頃から税務調査はあるものという前提で、これらの基本を理解して経営の舵取りをすることが必要と言える。また、事前確認制度を活用して、事前に税務当局に関係会社との取引価格が独立価格であることを確認するというのも方法だ。


◆出向者の個人所得課税問題

たまたま、筆者が海外拠点の経営診断をさせていただいた企業でも見つかったことがあるのだが、出向者の個人所得が合算されずに申告されているという問題だ。出向者の所得は現地給だけではなく、日本で支払われる留守宅手当等も含めて合算して申告する必要があるのだが、現地での支払い分だけしか申告していないと、多額の追徴をされるというケースがある。実際、インドで現地給だけでしか申告していなかったのが、日本で国内給が支払われていることが知られてしまい、多額の追徴をされる事態になったという企業もある。この原因は、個人所得税の管理をする部門がこれらを知らなかったり、日本の国内給の情報が伝えられる仕組みができていなかったりということが原因だが、このようなことのないように、仕組み面も整備しておくことが必要だ。赴任を終えて、帰任しようとしたら、出国時に税関で納税が完了しているかチェックされるという例さえある。


◆全社的に税務リスクの啓蒙も必要

日本から海外拠点に出張する場合一つも、目的によって、その費用を日本が負担すべきか、海外拠点が負担すべきが違ってくる。海外拠点に支援に行くのであれば、当然、渡航費と共に支援費も海外拠点が負担すべきだ。そうではなく、グローバル本社として監査に行くというのであれば、これはグローバル本社の仕事ということになるので日本で負担ということになる。出張申請用紙の中に、海外支援と記載すれば、当然、海外拠点から支援料をもらっているはずということになってしまう。安易に「支援と書いておいた方が体裁が良い」というような申請書の書き方をしてしまうと、追徴を受ける原因になってしまう。そういう意味でも、全社的に税務リスクの啓蒙も必要と言える。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、災害が発生した時に備えた保険の付保について述べた。今回は、安全リスクへの対応について述べることにする。日本は世界の中では極めて治安の良い国だけに、日本からの旅行者を見ていると、安全に対しての意識の低さに驚くこともあるが、海外に赴任する場合は、事前に安全対策についての徹底も大切だ。
 

◆その国の治安情報を踏まえた日頃からの対応

 国によって、治安は異なる。従って、渡航前には、外務省の海外安全ページ等で、赴任国の治安情報や対策等をよく読んで、現地事情を理解して赴任することが大切だ。特に、治安の悪い地域では、安全対策についてまとめた資料を提供している大使館もある。どのような住居にすべきか、寝室への施錠の必要性、行動を予知されないようにすることの大切さ、また、強盗にあった時を想定して、お金が渡せるようにしておくといった種々の注意喚起がされている。それらについては、事前に十分目を通しておいていただきたい。

ところで、筆者が最も重要だと思っていることは、それらの情報を踏まえ、どれだけ日頃から安全に心がけた行動をとるかということだ。それだけで、身を守れる確率は随分と高くなる。

基本は、どういう時に狙われやすいかを理解し、それを踏まえて「狙われやすい状態を作らない」、また、「狙われやすい時間を短くする」ように日頃から心掛けることが大切だ。例えば、車に乗っている時であれば、襲われるのは停車時が大半だ。ということは、赤信号の時でも、できるだけ停車しないように、早めにスピードを落としてノロノロでも動くような運転をする。また、乗り降りする時が危険なので、必ず、周囲を確認する癖をつける等、日頃から些細と思われることにも気を使うことで、身を危険にさらす確率はかなり落とすことができる。

日頃から被害にあわないように意識して行動することが大切であり、自分の身は自分で守るという意識を忘れてはならないということだ。

随分以前の話しなのだが、ある国に出張した時に、現地で案内してくれた方が、「できるだけ警察官が立っている通り」を通るようにしているという話しをされた。「それは、警察官がいる方が安全だからということなのですね」と言うと、そうではなく、「警察官は自分の身を守るために安全なところにしか立たないからですよ」と笑い話のようなことを言われたことを今でも覚えている。その国で生活するには、どこが危険かを知り、それに対応した行動をとるということしか身を守る方法はないということだ。

◆比較的安全と言われる国でも身の危険にさらされるということも

ところで、治安が比較的良いとされる国でも、身が危険にさらされるということがある。少し前になるが、タイで日本人の工場長が帰宅途上の車の中で、拳銃で撃たれたという事件があった。このような事件の発生は恨みによるものが大半だ。

注意しておきたいことは、例えば、廃棄物処理業者等は反社会的勢力の組織の一員であったりすることが多い地域もあり、そのようなところでは、現地事情のわからない日本人が表に立つべきではないということだ。きちんとした廃棄処理をしていないのではないかとか、引き取り単価や重量をごまかしているのではないか等の疑問から、業者を変更しようというような動きを日本人出向者が表に立ってやると恨みをかい、身の安全が脅かされるということにもつながる。このあたりの関係は、実はローカルメンバーならよく知っているはずであり、先ずは、日頃からローカルメンバーとのコミュニケーションをしっかりとり、ローカルに任せるべきことはローカルメンバーに任せるということが大切だ。


今、日系各社は、新興国はじめ新たな国々への進出を加速している。貧富の差の激しい国であれば、それだけ身の危険が増すケースも多くなる。身の安全を守るためには、先ずは、現地事情をよく理解し、それを踏まえた行動をすることだ。また、日頃からローカルメンバーとのコミュニケーションを図り信頼関係を築くことが大切だ。ローカルメンバーとの信頼関係が築けている人であれば、ローカルが教えてくれたり、助けてくれるということが多いからだ。これらは、現地で仕事をさせていただく上での基本でもある。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、「生産が停止するリスク」の中の災害について、筆者が経験した事例を紹介した。今回は、災害に備え、保険の付保について述べることにする。災害が発生してから付保漏れに気付いたというのでは遅い。その前に、保険の付保状況についても、是非、チェックしておきたい。 
 

◆保険を付保すべきものは

 会社の財産、及び、管理責任のある資産については、すべて保険を付保しておくことが必要となる。また、災害が発生すると操業ができなくなるので利益保険も大切だ。
 先ず、会社の資産から確認しておきたい。チェックすべき事項は、B/Sの借方の残高と比較して、付保漏れや一部保険になっているものがないかである。固定資産では、通常、どの企業でも固定資産台帳等は整備されていると思うので抜けは少ないが、簿外資産や預かり品については抜けているケースがある。また、賃貸契約等をしている資産で、契約上付保責任のあるものについてはきちんと付保されているか確認が必要だ。また、外注先への貸与金型、貸与設備についての保険の付保については、契約の中に明記されているか、確認しておく必要がある。実際、診断等で外注先に貸与している資産の管理状況を確認した際、保険が付保されていなかったケースも散見される。外注先で火災等が発生するということもありうるだけに、貸与資産については、よくチェックしておきたい。

 続いて、棚卸資産だが、ピーク時の在庫をカバーする保険になっているか確認しておく必要がある。棚卸資産は常に量が変化する。量や物の動きに即した保険(通知保険特約等)に加入することも大切だ。利益保険は、営業利益と共に、非操業となる期間の人件費等を含めた経常費用を付保するものであるが、付保金額の妥当性の確認と、特に確認しておきたいのは、サプライヤーでの事故により自社が操業できなかった場合の利益と経常費用をカバーする構外利益担保特約についても付されているか確認しておきたい。実際、サプライヤーに起因して操業できなくなるということも多いからだ。そして、これら付保明細が、一覧で管理できるようにしておくことが大切だ。通常、期限になると保険会社から連絡をくれるが、期限切れになっていたということも無いとは言えない。これらの管理責任者が決まっているか、抜けなく、これらの管理ができているかを確認しておきたい。

 

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

今まで述べてきた「海外でよくある問題」は、経営を進める上でのリスクの一つであるが、海外でオペレーションする場合は、発生する可能性のあるリスクを想定して、事前に対策、点検をしておくことが事業継続を図る上では必要不可欠なことと言える。

それでは、海外で事業を進める上で、どんなリスクがあるだろうか。先ずは「生産が停止するリスク」である。生産が停止すれば、事業は継続できなくなるからだ。また、「安全や健康リスク」、「環境変化リスク」、「税務リスク」、以前述べた「未回収リスクや労務問題等の現地での経営を進める上でのリスク」、さらに合弁の場合は、「パートナーに関わるリスク」等も存在する。これらを少しでも回避するには、日頃から意識して事前に対策をしておくことである。今回は、この中から、先ず、生産が停止するリスクについて考えてみることにする。


◆生産停止にはどんな原因があるか

 生産が停止する原因には、火災や水害といった災害、労働争議、ストライキ等による生産停止、反日運動等の妨害による生産停止、インフルエンザ等の蔓延による操業停止、また、調達先のトラブルによって部材が供給されない場合や、政情不安や港湾スト、政策的な輸出入規制等に起因する場合がある。この中で、労働争議の話しは以前も取り上げたので、今回は、先ず、ある日突然発生する災害に起因する生産停止へのリスク対策から考えてみたい。
 

◆災害による生産停止への対応(ある事例から)
 自社工場が火災、水害、地震等で生産停止に追いやられるというようなことは、無いにこしたことはないが、実際、火災は、ある日突然発生する可能性がある。また、水害は、以前発生したタイの洪水は有名だが、インドネシア等も多く、地域や気候によって発生するリスクがある。これらは、進出時等、事前にリスクチェックを行ない、これらのリスクが少ないエリアを選定するか、事前にリスクを想定して盛り土等の対策をしておくことで、被害を最小限に留めることが必要だ。

ところで、筆者も以前、海外の経営責任者をしていた時に、一つの工場で火災を発生させてしまった経験がある。今回は、この時の内容を紹介する。

発生時間は、深夜未明で、発生場所は、工場の事務所であった。朝早く出勤した社員が発見したのである。事務所は全焼したが、幸い、密閉状態で延焼は免れ、誰ひとり怪我もなく、生産設備は無事であった。しかし、主要な電源ケーブルがすべてこの事務所の上を通っていたことから、工場への送電が全くできない事態になり、この工場は真っ暗というだけでなく、すべての生産設備が動かせない事態になった。また、隣にある物流棟への搬送装置の電源ケーブルもここを通っていたことから、物流棟が機能しなくなり、火災の発生していない他の工場で生産したものの搬送もできなくなった。1つの工場の事務所だけの火災にもかかわらず、全工場の生産が停止する事態になったのである。

 筆者がこの事態を知ったのは、朝、会社へ向かう車の中だった。緊急連絡網が機能し、すぐに連絡がきた。対策本部の立ち上げを指示し、会社に到着と同時に現場を確認した。この時点で、警察や消防、また、保険会社やシステム会社等への連絡はすでに行なわれていた。また、誘導係がハンドマイクで、出勤してくるこの工場の従業員に食堂に集まるように誘導してくれた。記録班は、何時に警察が来て、何時に保険会社が来て・・・と写真と共に時系列に記録に留めてくれた。お陰で、日本への報告も時間経過も含めて適切に報告することができた。対策本部では、いつまでに復旧させれば顧客への納品に問題は発生しないかの確認をし、いかに早期に復旧させるか、そのための対策を検討した。先ず、物流棟への電力供給を別ルートにすることで、火災をおこした工場以外の操業が開始できるようにした。1時間だけのストップで留めることができた。火災が発生した工場の復旧で、一番、問題だったのは、消防の現場検証がいつ終わるかであった。現場検証が終わらないと復旧工事に入れないからだ。最初に現場検証に来た調査官の女性のリーダーは、上司の確認がいるので、明日まで、このまま現場保存せよと言いだした。それでは復旧工事にあたれないことから、ローカルの取締役がその上官に直接話しをするように動いてくれた。実は、このあたりは、ローカルから、ある程度、原因の特定を推察できる説明まで用意した方が早いとの提案がなされ、うまく話しをしてくれたのである。おかげで、午後7時前には復旧工事の許可を得ることができた。

 現場検証をしている間に、復旧工事部隊は、見事な外段取りをしてくれた。事務所の中の燃えた机等を先ずは撤去しないと作業に入れないことから、撤去品を置く場所が決められ、搬出のための運搬具が用意された。また、設備をすぐに動かすために、電源ケーブルを、直接設備に配線し、恒久的な工事はその後でやることに決め、そのためのケーブルが順番にその工場棟の周りに配置された。工場の設備配置図面にはどのように作業するかも記載された。徹夜での復旧に備え、照明器具も用意された。普段から、生産現場では段替え時間の短縮化に向け、外段取りや内段取りのさらなる短縮への取り組みはされているものの、このような復旧工事での外段取りのすばらしさには、内心、感心したことを覚えている。お陰で、翌朝には、8割ほどの設備が動かせる体制が整い、顧客に迷惑をかけることもなく、実質1日だけの操業ストップですませることができた。


◆◆事例からの教訓
 今回紹介した事例は、生産設備への延焼が免れたというラッキーな面はあるが、非常事態の体制がうまく機能してくれたことで、迅速な復旧を図ることができた事例と言える。どの企業でも、日頃から避難訓練や消火訓練は行なっている。しかし、いざ火災等が発生した時に、役目を担うべき担当者が退職して空白になったままになっていたり、担当は決まっていても、具体的にどんなアクションをとる必要があるかが決められておらずに対応が遅れたりという事例は多い。形だけの体制ではなく、常に、担当がやるべきことは理解されているか、また、非常時に備えて準備すべきものは準備されているかを確認しておくことが大切ということだ。

 また、非常時の場合、現地事情がわからない日本人では適切なアクションがとれないことが多い。実際、タイの洪水の例では、復旧に向けて、日本人ではどうしたらよいかもわからず、すべてローカルがやってくれたという会社は多い。事実、ボートや潜水夫の手配一つ、日本人はどうしたらよいかもわからなかったというのが本音である。すなわち、非常事態での体制と役割、何をするかを決め、ローカルに任せるところはローカルの判断に任せることが大切ということだ。実際、筆者が経験した火災の時も、こうした方がよいというローカルの判断をすべて尊重した。現地の火災調査官との交渉だけではなく、復旧に必要な資材や業者・人の手配は、すべてローカルが行なってくれた。通常のメンテナンス業者だけでは難しいものも、ローカルならではの人脈を活用して手配してくれた。結果、それが一番早かったということだ。

 さらに、火災を発生させない、大きくしないという観点では、保険会社等のプロにチェックしてもらうことも有効だ。構造的に改善した方がよい部分は改善しておくということも大切だからだ。実際、筆者が経験した火災は、事務所が完全にクローズされた空間になっていたことで設備への延焼が免れた。いかに発生させないか、また、万一、火災が発生しても延焼を発生させないという視点でのチェックも大切と言える。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、海外拠点で発生する知財問題と対策について述べた。今回は、進出前に検討しておくべき事項について述べることにする。特に、どの国で生産するか、また、生産する場合、知財という観点から生産方針を明確にしておくことが重要なのだが、意外にこのあたりが不明確というケースも多い。実際、コスト試算をする際、これらが明確になっていないとコスト見通しを大きく狂わせることになり、大きな目論見差異を発生させることにつながる。また、後任者に引き継ぐ際も、この知財問題について、しっかりと引き継ぎしておくことが大切と言える。以下に、これらのポイントを述べることにする。

◆生産方針を明確にする

 先ず、進出する前に、進出候補国の知財問題の状況を把握することは大切なことだ。知財に対する意識が低い国や法律が未整備とも言える国では、ノウハウが流出し、模造品が出る可能性は高いからだ。知財の流出リスクの高い国では、それなりの対策が必須ということになるし、知財流出が経営面で致命的になる場合は、そのような国に進出すべきではない。

また、進出にあたっては、模造されては絶対に具合が悪いというものは、厳重な管理の下で生産する必要があり、外部に図面や仕様書、また、生産ノウハウが流出するというようなことのない生産体制を築く必要がある。当然のことながら、そのような製品の場合は、外注してもよい部品は何か、絶対に内製しなければならないものは何かを明確にする必要がある。

すなわち、どこで生産するかということも含めて、知財という側面から生産にあたっての方針を明確にして取り組むということだ。当然のことながら、このような製品については、金型の製作やメンテナンス等についても方針を明確にして進めることが必要だ。金型図面や金型構造がわかってしまえば、模造品は作れてしまうからだ。実際、金型の修理については日本で行なうことにしている企業もあるが、これらの企業では予備の金型を持つなど、金型面数も多く必要となる。

すでにお気付きだと思うが、実際、コスト試算をする場合は、これらが明確になっていないと、大きくコストが変わってくることになる。進出前のFS段階で、コスト試算は必須事項だが、その前提として、生産方針を明確にしておかないと、大きく目論見違いになってしまうということになりかねないのだ。

◆知財についての引き継ぎも重要

ところで、知財に対する意識が薄かったり、事前に明確に上記のような生産方針が示されていないと、出向者が交代したりした際に、問題を起こすケースが意外に多い。経営責任を担う出向者の立場であれば、当然、利益を少しでも多く確保するために、外注する方が安ければ外注化を推進するだろうし、また、設備や金型等についても日本に依頼するより、その国の業者に発注した方が安ければ、外注化を推進したりしてしまうからだ、こうなると、結果としてノウハウは流出することになってしまう。日本の場合は、外注化しても、今後の取引のこともあり、図面や仕様書、また、製造ノウハウ等が流出するケースは少ないが、海外の場合は、日本と同じような感覚で外注化等をすると、すぐに模造品が出回ることにつながることはよくあることだ。実際、金型屋に自社の新製品の金型の状況を確認しに行ったら、コンペチターの人が来ていたということもある。金型の写真を、こっそり撮って帰ったとしてもおかしくないし、少なくとも、自社の新製品情報はコンペチターに流れているということになる。

また、一つの部品くらい問題ないというケースもあるが、ビジネスモデルが、補修用のパーツで儲けるというビジネスだと、模造品が安く出回り、事業そのものが大打撃を受けるということにもなる。やはり、事前に絶対に模造されては具合が悪いものは何かを明確にして生産方針を決め、それを後任者にも引き継ぐということが大切ということだ。

◆意匠登録も抜けなく

日本で発売した商品のデザインが真似され、他国で発売されるということは多い。また、日本で発売と同時に、他国で自社商品のデザインが意匠登録されてしまい、その国で発売しようと思っていたものができなくなったという事例も多い。このようなことを防ぐためには、今後発売しようとする地域には、日本と同時に意匠登録をすることが大切ということだ。

ところが、意外に、このあたりの方針が不明確になっているケースがある。意匠はデザイン部門が管轄しており、発売する日本での登録は行なうものの、その商品が、今後、どの国で販売する計画なのかが明確にされておらず、どの国に意匠登録が必要かということが明示されていないという場合だ。

実際、日本で発売して市場性も高いので他国でも発売しようとしたら、すでに意匠権は他社が取得しており発売できないということが発生するのは、中期を含めたグローバル戦略が明確になっていないことに起因している場合が多い。特に、意匠権の場合は、少しデザインを変更してみても類似性があればOUTになるので、根本的にデザイン変更しなければならなくなってしまうケースが多いだけに、最初に、グローバル戦略を明確にして、意匠という視点でも抜けなく対策しておくことが重要と言える。

商標も同様だ。その国で発売しようとしたら、すでに自社のブランドが商標登録されていて、自社ブランドが使えないということもある。自社のブランドで発売しようとすると、商標を買い取る必要があるが、莫大な費用が発生することになってしまう。従って、商標についてもグローバル戦略を明確にして先手で登録しておくことが大切と言える。

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以上、知財について、進出前に検討しておくべき事項の一端を述べた。日本は技術立国と言われるように、正に新たな技術や工法を生み出すことで生き残ってきた。知財の大切さをしっかり認識し、知財を守るということを肝に命じてグローバル展開を図ることが大切だ。 

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

今回は、海外でよくある問題の一つである知財問題について取り上げることにする。とりわけ、中国はじめ新興国と言われる国では、模造品問題は後を絶たない。本物との区別がすぐにつきにくい模造品が出れば、模造品に市場を奪われると共に価格が低下、さらには、粗悪品であればブランドイメージを大きく傷つけ、自社のビジネスに大打撃を与えることにつながる。また、知財問題の中には、意匠権や商標権で苦労する例もある。どの企業も対策に苦慮しているというのが現状ではあるが、日頃からこれらを意識した対策がとられているかは重要なことと言える。

 

◆模造品はなぜできるのか

 模造品はなぜできるのか?この根本原因を理解しておかないと対策は難しい。現物を見て真似たデザインにするということはよくあることであるが、基幹となる部分が模造されている場合は、図面や仕様書等が流出しているケースが多い。さらに、製造ノウハウが無いと製造が難しいという物もあるが、このような物が出てきた場合は、製造ノウハウが流出したと疑う必要がある。

 それでは、どこからこれらの図面やノウハウが流出するか?

 先ず、進出と同時に模造品が出たという場合は、進出にあたっての準備段階で、図面等が渡っているケースである。商談をする際に、サンプルを渡したり、または、サプライヤーを探すにあたり図面を渡したりしている場合だ。逆見本市は、新たなサプライヤーを探すには有効な方法だが、その際に、「自社でできる部品ばかりなので、見積もりを出す上で主要部品の図面を提供して欲しい」と言われ、渡してしまったというようなケースである。すなわち、安易に図面やサンプルを渡すということは要注意ということだ。また、製造ノウハウを伴う生産品の模造品が出たという場合は、従業員がこれらノウハウを持ち出しているケースが多い。すなわち、これらのノウハウを持ち出し、退職と共に、自ら、これを使って同じ物を作るというケースである。日本に研修に行かせ、または、日本からの支援者からノウハウを学ばせ、中核にと思って育てた人材がやめてしまい、自社の生産に問題が発生してしまったというだけでなく、ノウハウが流出して同じ物が他から販売されてしまうというケースだ。

これ以外には、サプライヤーを通じて図面が流出したり、金型を修理に出したことからノウハウが流出したりと、図面やノウハウの流出原因は多岐に渡る。


◆模造品対策
 -真似されない構造・工法等の採用

先ず、このような点から、模造品が出ないように対策するためには、一つには、真似をしようにも簡単には真似ができない構造や工法を入れておくということである。実は、筆者が、海外会社の経営責任者をしていた時、輸出国で模造品が出回ることを防ぐために、他社には簡単にまねができない工法を織り込んで新製品を発売したことがある。しばらくすると、その工法を織り込んだキーとなるパーツをそのまま売ってほしいという注文が、輸出国にあるメーカーからきた。流石に呆れたのだが、多分、他の部品は実物を見て模造できたのであろうが、この部分だけは、どうやってもできなかったため注文してきたのであろう。併せて、堂々とキーとなるパーツを注文してくるということ自体、模造品を出すことへの罪悪感が欠如した国民性であることに驚いた事例でもあった。いずれにしても、模造を困難にするための対策をするということが大切と言える。

◆ノウハウの流出対策

 併せて、ノウハウの流出対策である。冒頭述べたように、本物と同様に機能する模造品の場合は、図面や仕様書等が流出しているケースが多い。もしくは、製造ノウハウ等が流出しているケースだ。これは、機密情報漏洩対策を、その国の事情に合わせて、どれだけ構築できているかにかかる。転職が多い国であれば、その企業で得たノウハウを次の転職先で活用できると売り込んで、より高待遇で条件の良いところに転職しようとするのが常道だ。キーマンが退職したら、しばらくすると同じものが他社から発売されたということはよくある。すなわち、従業員とは、秘密保持契約や競業避止義務契約等を結んでおくことが大切ということだ。どれだけ守られるかは別としても、退職したいと言ってきた時には、この契約内容について再度説明して徹底することが基本と言える。これにより、退職そのものを阻止できることもある。

 その前に、ノウハウの流出を防止するためには、先ずは、機密保持が必要な情報やノウハウは何かを整理することから始める必要がある。これを明確にした上で、機密情報の管理をどのように行なうかを決めていく。書類であれば保管する場所を決め、施錠すると共に、鍵の管理者や管理方法、情報を見るルール、コピー等がとれない仕組み等が有効だ。また、電子媒体であれば保管するサーバーやその情報へのアクセス権限、パスワードの管理やコピー防止の方法等を確立する必要がある。さらに、機密情報は文書やデータだけではない。サンプルや配合見本はじめ「物」ということもある。また、製造工程や工法、計器が示す値等も大切な機密情報というケースは多い。実際、温度や濃度をはじめとした管理すべき事項は製造ノウハウそのものだからだ。

 先ずは、これら機密情報は何か、また、機密の重要度によって区分し、管理レベル・管理方法を決めることが大切ということだ。尚、重要度によって管理レベルを変えるのは、すべて同じレベルで管理するというのは、実質的に難しい。

 ところで、技術者を退職させないということも重要だといえる。とりわけ、中核の技術者になると技術ノウハウの大半を修得しているケースが多く、転職先は、それらのノウハウを活用できるところになるケースが多い。従って、いかに転職を防止するかの対策を日頃から打っておくことが大切だ。法的には規制できないが、日本などに勉強に行かせる際には、10年間は退職しないというような誓約書を出させる等は有効な方法だ。また、日頃から退職を招かないようにコミュニケーションに努めることが大切と言える。
次回は、進出前に、知財という視点で、事前に決めるべき生産方針等について述べる。 

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、話題になった中国の食肉事件の事例について述べたが、今回は、回収問題について述べることにする。

今回取り上げる売掛金の回収問題は、どの国でも発生しているという訳ではないが、インドや中国などの新興国ではよく発生している問題である。実際、売掛金が回収できないと、それはそのまま自社の資金繰りの悪化を招くだけに海外では極めて重要かつ深刻な問題である。しかし、出向者の中には、販売すれば支払ってくれるのが当たり前という日本と同じ感覚しか持っていなかったために、倒産の危機に直面したという例もある。今回は、売掛金の回収に向けて、日頃から注意しておくべき事項例について述べることにする。

 

◆出向者への教育

 冒頭述べたように、先ずは出向者に対する売掛金の回収管理の重要性を、資金繰り、キャッシュフローという視点からしっかりと事前に教育しておくことが大切だ。資金繰りが悪化し経営危機に陥ったケースを見ると、回収管理の重要性への認識不足、また、日常管理すべきことがわかっていなかったというケースが結構多いからだ。

また、海外では日本の常識は通用しないことが多い。実際、インドでは、「いかに支払わずにすませるか、いかに支払いを遅らせるかを考えるのが、経理責任者の役割」とさえ言われる。インドは金利が高い。少しでも支払いを遅らせれば、その分の金利だけでも大きいので当たり前のことだ。


◆与信管理

 先ずは、取引にあたっては、きちんと支払いをしてくれる相手であるかの確認が必須だ。信用を与えられるかどうか、与信管理が大切ということだ。実際、売掛金回収問題が発生している事例を見ると、事前に、信用調査を行なっていなかったということが意外に多い。信用ができないところとの取引であれば、現金先払いでの取引にする必要がある。また、問題がないと判断するところも、与信限度枠を設定して未回収リスクの上限を設定することで、リスクを抑える取り組みをすることが大切だ。

また、信用調査も定期的に行なうことで、変化する経営状況を確認することだ。


◆基本取引契約書

 取引にあたっては、支払い条件等も含めて取引にあたっての基本契約の締結が必須である。現地のローカル企業の社長と意気投合して口約束だけで取引をスタートというようなことはあってはならない。また、不良が発生した時の処置や費用等についての扱いも事前に明確にしておくことが大切だ。

◆回収管理

 売上は、販売した時点で計上するが、お金という点では、基本取引契約書に基づき、請求書を発行することがスタートになる。確実に請求がされなければお金の回収はできないからだ。大切なことは、支払期日に確実に入金がされているかという入金管理である。もし、支払期日に入金されていないようであれば、すぐに督促しなければならない。

期日通りに支払われないケースとしては、請求書の処理漏れ等の理由ではない場合も多い。取引先が「資金繰りに窮している」または「意図的に遅らせている」というケースも多いからだ。特に、取引先が資金繰りに窮している場合は、回収が難しくなる可能性は高く、今、注文を受けて生産しているものについては生産を即座に停めるといった判断も必要となる。また、経営状況を見極め、債権回収が難しいようであれば、取引先にある在庫を引き上げるといった措置も必要になる。そこまでの状態ではない場合も、与信限度枠の見直しを行ない、リスクを少なくする処置も必要だ。

気をつけてほしいことがある。ある企業で、インドの取引先がなかなか入金してくれず、取引先から2カ月のサイトを3カ月にしてくれれば支払えると言われ、安易にそれに応じてしまったという例がある。皆さんはすでにお気づきだと思うが、3カ月にしても同様に入金してくれないままだったのである。すなわち、安易に回収サイトを延ばすというようなことはしないことだ。実際、1カ月遅らせることで金利だけでいくら損することになるだろうか。利益が出ているようでも、回収が遅れれば利益の確保はできなくなるということも理解しておくことが大切だ。また、回収サイトが長くなるということはそれだけ回収できなくなるリスクが増えるということにもなる。

もう一つ注意していただきたいことは、インドなどでは、お金がある時に支払える分だけ支払いをしてくるというケースがあるが、これは具合が悪いということだ。こうなると、どのPO(Purchase order)の分が支払われたのかがわからなくなってしまい、問題発覚が遅れる原因になるからだ。常に支払い内容とPOとは、一対一の関係にしておくことだ。

◆事前の予兆管理

 取引高も大きくリスク懸念のある取引先については、常に定期的な信用調査が必要であるが、日頃から、取引先の経営状態をチェックするように意識しておくことが大切だ。例えば、納品の際に倉庫を見て、在庫が滞留しているかどうかをチェックすることで、お金が回っているかどうかは判断できる。多くの滞留在庫があるということは、現金化が図れていないということで、資金圧迫を招いていることになる。物流業者に任せきりではなく、納品に同行して確認するということも有効ということだ。

◆残高確認

 新興国の場合、取引先のバイヤーや自社の営業マンが、単独、もしくは、共謀して不正をするということはよくあることだ。この不正を防止するという意味では、売掛金の残高確認をすることが効果的だ。すなわち、取引先の買掛金残高と自社の売掛金残高が一致しているかを確認するために、売掛金の残高証明書を取得するのだが、不正が多い国では、これを毎月取得することが有効だ。例えば、自社の営業マンが販売促進をするためのセール費用を出すと約束したなどと言って売掛金残高の中からこの金額を減額したりというようなことが発生していると、それがたまりにたまって、突然期末に、不良債権化してしまうということもあるからだ。常に、健全なB/Sを保つという意味でも、売掛金の残高確認は有効と言える。

◆滞留債権の管理と回収推進

 滞留債権化させないということが基本だが、もし、発生させてしまった場合には、売掛金年齢調べ表を作成して管理すると共に、適切な貸倒引当金の計上、また、滞留化した債権の回収に向けての取り組みが必要となる。実際に現場を見ると、裁判をするまでに持ち込むだけでも苦労されている例は多く、裁判をしても回収までに長時間を要しているケースが多い。

いずれにしても、このように滞留債権化させない日常の取り組みが大切ということだ。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、海外でよく発生する盗難問題について述べた。

今回は、7月20日に問題発覚して騒動になった、上海の食品加工会社の消費期限切れ肉の使用事件について、感じたことを述べたい。

今回の事件は、「国民性を踏まえた対応の必要性」を示唆する事件であり、この国民性を踏まえた対応には、以前述べた生産条件の違いを踏まえた生産方式の検討と同じような検討が大切なことを示しているとも言える。今回は、これらへの対応について述べることにする。

 

◆各国の国民性の違いとそれを踏まえた対応について

 国民性の違いについては、先日、取材を受けたので、筆者が経験した具体的な事例については、記事が掲載された際に見ていただくとして(もっとも、どれだけ掲載されるかはわからないが)、我々、グローバル事業を展開する者としては、各国の国民性の違いを踏まえたオペレーションが大切なので、その視点で今回の事件を見てみたい。

 今回の上海の食品加工会社での事件は、自分の利益のみを考えるという国民性がよく表れている。どうしても、人口が多く競争が激しい国では自分の利益を優先せざるをえないという背景がある。そこに、少しでも道徳観があれば別だが、このあたりは、宗教や育った環境にもよるので、それらも踏まえて対応を考える必要があるということだ。それでは、このような国民性の国ではどのような仕組みを検討する必要があるだろうか。考え方は、以前述べた海外に進出する場合の生産方式の検討方法と同じだ。各国で生産する場合、その国の生産条件の違いを踏まえてリスクを抽出し、それに対応した生産システムを構築するということだが、今回の食品の安全確保という視点では、どんなリスクがあり、それに対し、どんな対策が必要だったであろうか。

 先ず、自分の利益だけを考えるということからすると、どんなリスクが考えられるかすべて抽出することが必要だ。このリスクの抽出は、徹底して性悪説で検討することがすべてのリスクを抽出するという上では大切だ。原材料という視点で見てみれば、有害物質が入っていようが、不衛生だろうが、カビが生えていようが、お客がわからなければ、安く仕入れられる肉ならどんな肉でも良いと考える可能性がある。当然のことながら、原材料についての検査基準については、それをいかにごまかすかということも考えられる。また、製造工程では、さらに安くするためには、何かしらの混ぜものができないかと考えてもおかしくない。不良品を作っても廃棄せずそのまま使うということも考えられる。すなわち、これらのリスクに対して、どのような対策を打つかが大切ということだ。原材料をチェックする仕組み、工程に指定のもの以外が入らない仕組み、不良品を再投入できない仕組み等が大切ということになる。ちなみに、検査やチェックを真に正しく行なうには、その企業の社員では難しいケースも多い。利害関係のない全く別の企業に依頼し、もし見逃せば大きな罰則がかかるというような仕組みの方が効果は高い。利益を重視する以上、自社の従業員が不良を見つけても隠ぺいしたり、安くせよという交渉はしても、それを使わないという判断がされることは難しいからだ。実際、日本の輸入業者が確実な品質の品を入れようとすれば、常時日本の輸入業者の人間が検査やチェックの仕事をするというやり方を検討するのも方法だ。

 ところで、今回の対策として、日本の購入側の企業は監査やチェックを厳しくするという対策見解を述べているところがあるが、これは、監査やチェック日以外の日に具合が悪い材料は使ってしまえばよいだけで、監査やチェックでいかに見つからないようにするかという取り組みがされれば、効果はほとんど期待できないことになる。

また、このようなことは生産現場だけに発生するとは限らない。流通過程にも発生する可能性がある。もっと粗悪な材料を使っているものと流通段階で取り換えることで、取り換えた商品を日本向けの安全な食品として国内で高く売ろうという考え方をするものもありうる。そうなると、流通でこのような粗悪品と入れ替えられないような対策も必要ということになる。実際、偽物が横行している国では、本物と偽物をいかに見分けられるように対策しておくかは大切なことだ。

 このように、先ずは、考えられるリスクをすべて抽出した上で、従業員の教育を含めて具体的な対策を織り込むことが大切と言える。ちなみに、中国だからすべて信用できないということではない。徹底した教育がなされ、極めて信頼性の高い品質を確保されている企業も多い。それらの企業は、これらのリスクをいかに摘み取るか、そのために何が必要かを検討され、対策を積み上げられてきていると言える。


◆産地はブランドイメージにも大きく影響する

 ところで、各産地の国民性やその国の特質は、そのままブランドイメージに直結している。安心・安全な産地のものは、大きくその産地名が表示されるだけで、訴求ポイントになり価値を向上させている。逆に、残念なことだが、中国産の○○という表示はそれだけでブランドイメージを低下させることになっている。すべての中国産に問題がある訳ではないものの、過去からの多くの事例がこれらのイメージを作り出している。ブランド戦略として大切なことは、○○企業の□□というように、その企業であれば、中国産と言えども、きちんとしたリスクを抽出し、適切な対策を打たれており信頼できる企業というイメージが作れるようにすることだ。それをするためには、単に監査・チェック体制を強化しましたとか、弊社では管理基準を定め、これに基づいてチェックしているので安全ですというレベルの話しでは、真の対策が打てているとは言えず、逆にブランド力を低下させることにもなるということだ。国民性の違いを踏まえた対応ということも考える必要があるのではないかと思う。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回までは、海外でよく発生する不正に対する対策例を述べた。今回は、盗難問題について述べることにする。
新興国であれば、どの国でもよく発生する問題の一つである。あまり喜ばしいことではないが、盗難は民度も低いのでやむをえないと言っていたのでは経営にはならないので、しっかりと盗難対策をすることは大切だ。とりわけ、日本から初めて新興国に赴任する出向者は、盗難に対して意識が薄いことが多い。赴任前に、これらの実態についてはしっかりと理解して赴任してほしい。 

 

◆先ずは教育

 先ずは、従業員への教育は基本事項と言える。盗みが発覚すれば当然、懲戒処分になるといったことを含めて、盗難するということがいかによくないことかは採用時と共に、定期的にも教育しておきたい。また、各職場の責任者に対して、盗難されないように管理するのは責任者の仕事だということも教育しておくことが大切である。すなわち、鍵をかけて保管しないといけないものは何か、その管理のルールはどうしなければならないかといった、管理の基本を徹底するということだ。

◆5Sの徹底が基本

 実は、5Sが徹底できているところは、盗難が少ない。中でも、整頓の基本となる3定(定位置・定品・定量)と表示・標識が徹底されていると、すぐに無いということがわかるからだ。すなわち、どこに(定位置)、何を(定品)、いくつ(定量)が一目でわかるようになっていれば、即座に無いことがわかると共に、それを管理する管理責任者の写真と名前を掲示しておくことで、ものが無くなったら、誰の責任かが明確になることで、資産の管理責任者としての意識も芽生えることになるからだ。

逆に5Sができていない職場では、何がいくつあるかも一目でわからないことから盗難にあってもわからず、盗み放題の職場ということになる。5Sは単に生産性や品質、また、安全ということだけではなく、資産管理の基本であり、盗難できない環境を作るということでも極めて大切なのだ。
 

◆休日対策は大切

ところで、盗まれるのは、通常の操業時ではなく、休日が多い。特に、設備や建物等のメンテナンス等で外部業者が入る際は、十分な注意が必要だ。入門時に指定場所以外には入らないように責任者に指示すると共に、立ち会い者をつけることも大切だ。また、盗難で多いものとしては、検査機や測定器具、パソコン等、小さいが高額なものが狙われやすい。売却すれば良い価格がつくからである。これらのものについては、日頃から作業終了後には鍵のかかるロッカー等に収納する等、管理方法を決めて盗まれることがないような対策が必要である。


◆監視カメラ等の設置

 常時、従業員を監視するということは、従業員を信頼していないということになるので、監視カメラの設置には抵抗感があるということもあるが、国によっては、盗難対策として、監視カメラの設置が必要なケースは多い。実際、監視カメラの設置には費用がかかるが、これによる抑止効果が大きいのは事実である。


新興国の場合、国にもよるが、始めから盗難はあるもののという前提で、対策をするということも必要ということだ。実際、入出門時のチェックだけでは盗難が見つけられないことが大半で、それぞれの国の実態に即して対策を変えることも必要と言える。



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