【JEMCO通信】 ジェムコ日本経営 コンサルティング事業部/広報室 編集

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カテゴリ: 2.「グローバル展開」の現場から

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

 前回は、海外でよく発生する不正の背景と、どんな不正が発生しているか、具体的な事例を紹介した。今回は、これら不正に対する対策例を述べることにする。
 

◆不正防止対策

 先ず、不正の防止対策としては、その国の実情にあわせ、内部統制の仕組みをどう作るかが大切ということになる。すなわち、お金が関係する取引すべてで不正が発生する可能性があるので、お金に関係する取引すべてにチェック機能が働くようにしておくことが基本となる。

◆基本は、担当部門とチェック部門を分けて責任を持たせること

 例えば、発注依頼者と、発注担当者、検収の担当者が同じだったらどういうことになるだろうか。好きに発注して懐に入れても全く誰も気付かないということになる。前回の不正事例の中に示した手袋の例であれば、手袋を発注する担当と、検収する担当が同じだったので、数量等のごまかしはいくらでもできたということだ。

すなわち、先ず、担当部門(発注部門)とチェック部門(検収部門)を分け、チェック部門は不正を見逃さないということが職務と明示することが大切だ。実際に不正が発生するのは、このように、一人ですべてを扱えるようになっている場合であり、このような不正を防止するためには、担当部門とチェック部門を分けて、それぞれに責任を持たせることが大切ということだ。

 お金を扱う仕事すべてを対象に、買う場合だけではなく、売る場合についても、すべてチェック機能が働くようにしておく必要がある。また、重要事項は、トップの決裁が必要ということにしておくことも大切だ。


◆複数見積もり、二社購買

 取引先に親戚や親しい人がいる場合は、不正が発生しやすい。数量面での不正や架空発注は発注部門と、検収部門を分けることで防止できるが、見積もり単価そのものを上積みしたりされるとわからないケースもある。これを防止するには、基本は複数見積もりや二社購買が望ましいということになる。しかし、二社購買は発注量という点で、難しいケースも多いので、最低でも複数見積もりさせることは是非推進したい。但し、複数見積もりしても不正があるケースも多い。すなわち、うその見積もりを作成して複数見積もりしたと報告してくるケースである。この場合は、別の部門(例えば経理部門)に、それぞれの見積もり先に確認をとらせるということで、それらの見積もりが正しいものかのチェックをするということも必要だ。


◆仕組みにする

 いずれにしても、疑えばキリがないということになり、それらを気にしていると不信感ばかりが募ることになりかねない。それを防ぐには、これらを仕組みとして整備しておくことが大切だ。日常の仕事として、必ず、担当部門以外にチェック部門がチェックするのが当たり前というような仕組みができれば、自ずと不正ができなくなり、不信感もなくなる。

 新興国ほど、このような不正は多いが、進出時点では、このような仕組みが構築できておらず、問題が発覚してから、仕組みを作っているケースが散見される。日本の常識で考えるのではなく、不正はあるものという前提で、それを予防する手を事前に仕組みにしておき、進出時から運用するということが大切なのだ。そうすることで、貴重な人材を失うことも防ぐことができる。

◆通報制度の導入

 もうひとつの不正防止策として、不正を見つけたら、通報させるという制度を導入するのも方法である。これらの導入は、国にもよるが不正に対する牽制機能として有効と言える。また、それら通報に対し、確認する体制も作っておく必要がある。

次回は、盗難対策について述べることにする。 




文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

 今回は、海外でよくある問題の中から、不正問題について述べることにする。

先ず、出向者が認識しておかなければならないことは、新興国であれば、必ずと言ってよいほど、不正はあるということだ。うちの会社ではそのような不正はないと言われる方もあるが、たいていの場合は、それがたまたま発覚していないからにすぎないと考えるべきだ。

 

◆不正も権利?

 新興国や発展途上国は、まだまだ、裕福とは言えない生活環境の人が多い。例えば、筆者がインドで経験した事例を紹介しておこう。20年近く前のことだが、当時は今のようなショッピングモール等はもちろんなく、裸足で歩いている人が大半だった。街の店舗を回っている時のことだ。小さい子供達が1ルピーでよいのでくれと足にしがみついて手を出してくる。かわいそうなので渡そうかどうしようかと迷っていた時、「渡したら最後、数えきれない人達に囲まれることになるよ」と言われ、仕方なく足を引きずって歩いたことを今でも鮮明に覚えている。このような生活環境で育った子供達が、今、働いているのである。ある意味、不正ができる機会があれば、それは一つの権利をえたのと同じと思ってもおかしくないということだ。

 不正についての感覚は、日本人はそのようなことは絶対に許せないことと考えるが、新興国や発展途上国では、それほど悪いことという意識は無く、不正も権利の一つという位の感覚だということだ。先ず、現地でオペレーションする出向者は、このあたりの感覚を理解しておくことが大切と言える。よくあるのは、信用していたローカルメンバーが不正をしていたことがわかり、それにより信用ができなくなり、それまで築いてきたローカルとの信頼関係が崩れるというケースは多い。さらに実際に不正を見つけ退職させたという例もあるが、そうなると経営そのものの推進に支障がでてくるケースもある。さらに、密告等があるケースもあり、そうなると、不信感ばかりが先になり、その確認や追及に明け暮れ、肝心の経営推進そのものが疎かになってしまうという例さえある。以前、この不正問題に頭を抱えられていた現地会社の社長に、「あなたがやろうとしていることは、まるで10億人の風土改革ですね。」と申し上げたことがある。先ずは、このようなことは当たり前と考え、目くじらを立てるのではなく、「幸い経営に大きな影響が出ていないのであれば、許されることではないが、まあいいか」位の気持ちを持っていないと精神的にも参ってしまうからだ。その上で、それを防ぐ策を検討し、着実に実行することが大切ということだ。


どんな不正があるか

 それでは、先ず、どんな不正が発生しているか、いくつか事例を確認しておきたい。

不正で多いのは、個人の裁量によって購入や支払いが決められたり、数量や単価の妥当性がチェックしにくいものだ。例えば、所要量が自動的に計算されない間接材料の取引は不正がしやすい。たまたま、ある支援先で、ものづくりのベースである5Sの指導をしていた時のことだ。手袋が各職場で保管されていたのであるが、各職場で保管する量も決められておらず、補充ルールも曖昧だった。実際に発注している部門では各職場での使用量をどのように管理しているのか、また、発注量はどうなっているかを確認していくと、それらの管理はされておらず、各職場責任者の言う数量からすると、どうみても実際の使用量の倍以上が発注されていることが判明した。各職場で交換の基準もなく、好きなだけ持って行って保管しているという状況だったので、実際に全社で注文している量は適切かどうかもわからない中で、発注担当者は必要量の倍の注文をして半分を懐に入れていたのである。

 また、こんな例もある。経営診断をした時のことだ。ちょうど、診断前のタイミングで、レイアウト変更に伴う工事が行われたところだった。明細を持って現場確認をしてみると、新品の扉に取り換えたことになっていたのだが、現物は従来の扉に色を塗っただけで新品に取り換えされていないことが判明した。当然、その会社の出向責任者は工事終了後に確認をしているが、そんな細かいことまでは確認しておらず、工事業者と工事を依頼した窓口である生産技術責任者との間で金銭のやりとりが発生していたということだ。当然、工事費そのものも水増しされていたのだが、出向者は相場もわからず、ローカルの生産技術の責任者任せで誰も不正に気付けない状況だったのである。

 そして、販売関係の例としては、販売促進費や特別値引きなど商談によって決めるお金での不正例である。担当の営業マンが販売先と結託して、販売促進費や特別値引き助成金等を積み増す商談をし、それを得意先が請求してきて、山分けにしていたという例だ。これは、取り扱う商品や流通形態等によるが、競争が厳しい場合、販売助成金等を出さないと売れないというケースもあるが、担当の営業マンの裁量で勝手にこのようなことが決められると、納入先から請求書が来てからでは対応しようがなくなってしまうということだ。

以上、金銭取引に関係した不正の例を見てきたが、このような金銭取引だけではなく、盗難等を含めて、海外の場合は、色々な問題が発生する。

 次回は、これらの具体的な対策方法について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

今回からは、海外でよくある問題の中から、それらへの対応策例を述べていくことにする。
初回の今回は、労働争議問題である。
労働争議問題は、新興国での生産拡大を進める中で、各社が苦労している問題の一つである。一般的に、新興国の場合は、組合も未成熟で経営側の説明は全く理解されず、労使交渉の場で、まともな話し合いができないというケースは多い。さらに、組合の上部団体が関与していることも多く、組合の大会に上部団体の幹部が参加していたり、指示を出したりしていることもある。国によっては、政党が裏で関与しているケースもあり、それらの影響を排除できない場合もある。さらに、労働争議が発展すると、残業拒否やストライキに留まらず、生産を妨害する行動に至る場合もあり、経営側が従業員をロックアウトせざるをえないという事態になるケースもある。いずれにしても、このような労働争議は、生産に大きな支障を及ぼすだけではなく、経営そのものに甚大な影響を及ぼすことになるだけに、出向者にとっては頭の痛い問題である。それぞれの国やそれぞれの企業によって事情は異なるので、対応策は一律ではないが、少しでもこれらに巻き込まれないような手は打っておきたい。今回は、これら労働争議にならないための対応策の一例を示しておきたい。


◆ローカルの人事責任者の重要性

 先ず、重要なことは、ローカルの人事責任者がどれだけ経営側と一体となって動いてくれるかということだ。そのためには、日頃からローカルの人事責任者とのコミュニケーションをしっかりとっておくと共に、出向者を支える存在になってくれることが大切だ。筆者は海外の経営責任者の経験があるが、赴任して真っ先に一番時間をとって話し合ったのがローカルの人事責任者だった。経営は人であり、先ずは、ローカル人材を掌握し、どう彼らの能力を引き出し、また、彼らをどのように育成していくかには、人事責任者が鍵となるからだ。また、組合対策の鍵もローカルの人事責任者が握っている。組合の役員一人一人の情報、組合内部の力関係、また、過激な行動にでるメンバー等は、通常、ローカルの人事責任者であれば把握しているはずである。組合のメンバーがどう考え、どんな行動をとるか、また、誰をおさえる必要があるか等をしっかりと把握することが、組合対策の第一歩であり、そのためには、先ずはローカルの人事責任者との徹底した意思疎通が必要不可欠と言える。また、それを踏まえて、具体的な対策を日頃から(昇給賞与や労働条件交渉のタイミングではなく)打っておくことだ。例えば、労使協議の場ではなく、日頃から組合の委員長はじめキーとなるメンバーと話しをする場を設ける等だ。


日頃のコミュニケーションとキーマンへの教育

 組合の委員長をはじめとしたキーとなるメンバーとの接し方だが、日頃から組合の委員長と一緒に工場を巡回するなどして、労使協議をする際の鍵となるメンバーと会社の問題を共有するように心がけることは有効な方法と言える。これは、組合幹部と会社の問題を共有化すると共に、彼らを教育する場にもつながるからだ。また、共有化した問題に対しては、真摯に対応していくことが、組合員の会社への信頼を高める上で大切だ。これらの取り組みは、やみくもに要求をあげてくるのではなく、実際に現場での問題の把握の仕方を実地で教え、経営として対応が必要なものは何かを指導することで、突飛もない要求をなくすことにつながる。大切なことは、労使協議の場で論議するのではなく、日頃からのコミュニケーションを図り、良き関係を築くことだ。賃金や賞与の交渉の時も事前にどのようにすれば組合員の納得を得ることができるか等も本音で話しが聞ける関係ができることが望ましい。出向者は、一人でカバーしないといけない範囲も広く、忙しい。しかし、日頃から組合対策については意識して事前に関係構築を図るように努めることが大切であり、それが、組合関係者の人材育成につながり、適切な労使交渉ができるベースを構築することにつながると言える。


◆近隣企業との情報交換の重要性

 昇給賞与等の労使交渉にあたっては、近隣の企業との情報交換をしておくことが大切である。本来は、自社の経営状況を踏まえて決めることが基本ではあるが、労働力の需給バランスという視点から、周辺企業の動きを無視することは難しいのが現状だ。日系企業が集積している工業団地等であれば、これらの情報交換が行われていることは多いが、そうでない場合は、ローカルの人事責任者に周辺企業の情報について集めるように指示することも大切なことだ。一社だけが飛び抜けて高い回答であれば、それをベースとした交渉になり、他社はストライキになるということも多い。従って、近隣企業は、どのレベルでまとめようとしているかという情報を事前に入手し、お互いに最終の着地点を調整しながら進めるということも大切なことである。また、それらの状況を踏まえて、自社の回答をどう説明していくかというシナリオをしっかり持って話しをしていくことが大切だ。併せて、近隣で労働争議が発生すると、それが飛び火してくるということもある。そのような場合は、争議が発生している企業の情報を入手し、事前に自社に飛び火しないような対策を講じておく必要がある。


◆政府関係機関との関係づくり

 労働争議にならないように尽力しても、労使交渉がうまくいかずに、労働争議になるケースはある。そのような場合、各国で事情は異なるが、労働局等の政府機関が、労働争議の調停に入るケースは多い。労働争議の解決には、これら調停機関の指導や意見は大きな影響も持つことから、日頃から、これら関係機関と懇意な関係を築いておくことが大切と言える。この関係構築には、ローカルの人事責任者に任せておくだけではなく、関係機関の鍵となる人物とは、情報交換の場を持つなり、事前の対策についてのアドバイスを受けるなり、日頃から関係の構築を図ることが大切と言える。これら機関への対応についても、ローカルの人事責任者と、よく協議をして対応することが大切と言える。

次回は、海外でよく発生する不正や盗難問題について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、「人の現地化」の必要性について述べた。出向者が現地事情を十分理解しておくことが必要であると共に、経営の現地化推進の重要性、また、これらへの計画的な取り組みができていないケースが意外に多いことを述べた。今回は、その具体的な推進方法の例ついて述べる。

◆ローカル人材の育成

 ローカル人材の育成責任は出向者にあることは前回述べた。しかし、現実には出向者は多忙を極めていることが大半で、正直、自らローカル人材の教育に時間をとるということは難しいことが大半だ。

 出向者が多忙となる原因は、大抵、日本側にあるケースが多く、日本が「内なる国際化」の推進が図れていないために、直接ローカルの責任者に問い合わせすれば良いものまで、日本人出向者に問い合わせや指示をしてきているという例は多い。高い人件費を払って、出向者に電話番をさせているようなもので、これが出向者の仕事になってしまっているというのでは話しにならないが、海外各社をご支援していると、こういう例は多い。

ところで、出向者が電話番役になっているかどうかは別として、現地の出向者が忙しいのは、いずれの拠点も同じである。それでは、限られた時間の中で、どのようにして人材育成を図れば良いだろうか。先ずは、経営人材の育成から述べることにする。

◆各種の検討会議は、最大の人材育成の場

 正直、教育ということで出向者が先生役を担って勉強会等をするということは、極めて難しい。勉強会のテキストの準備も大変だし、そのような時間がとれることはほとんどない。従って、筆者は、日常行なわれる各種の会議を、経営を勉強させる場と位置付けることを推奨する。例えば、月次の決算検討はどの企業でも行なわれているだろう。ローカルの次を担う中核メンバーに参加させ、資金や利益の計画差異の内容、その原因、また、部門別の計画進捗や計画差異を明確にする中で、それぞれの働きが、どう資金や利益に影響したかを明示しながら、資金を守るために行なうべきこと、利益を守るために行なうべきことを理解させていくということだ。実際、月末の棚卸で滞留在庫があれば、それによって、いくらの資金が寝ていることになるのか、いつ、現金化するのか等を論議することで、B/Sを健全に保つことへの理解やB/Sの圧縮取り組みが、どう資金に影響するかも理解できるようになる。また、このように、結果としての経営数字は、すべて、各部門の取り組み結果ということになるので、計画を守るために、自部門は何をやらないといけないかを、その場で問いただすことで、経営への理解も深めることができる。

 これら経営の基本が理解できてくると、各部門責任者は、自分の働きが自社の経営結果にどう影響するかがわかるようになり、やりがいも出てくるようになる。ちなみに、筆者の経験では、決算見通しが計画未達の見通しだった時に、ローカルの幹部メンバーが集まって、リカバリー案を作成してくれるまでになったことに感動した経験がある。各種の日常の会議は、経営の推進管理そのものであり、その場は、経営を実践勉強する場なのだ。これを徹底して活用するということを是非意識していただきたい。


◆昇格する時が一番勉強できる。昇格候補者研修等の積極推進を

 海外各社では、昇格は、各部門長推薦をベースに、社長が決めているというケースもあるが、昇格できるか否かがかかっている時こそ、勉強をさせるチャンスと言える。この研修に通れば昇格でき、給与が上がるのだから、皆が真剣に取り組むのは当然のことである。従って、この機会を活用しない手はない。方法としては、昇格候補者研修を企画することだ。
 管理職であれば、マネージメントの基本等を勉強させると共に、一つ上の階層として求められる事項(例えば、自社の課題を踏まえて自部門が取り組むべき事項を整理させ、その課題解決にむけた推進計画と実践推進状況を報告させる等)をテーマにするなど、上位職の立場でできる必要がある内容を研修テーマとして設定することだ。大切なのは、最初の計画段階、途中の進捗段階でも報告会等を行ない、指導していくことだ。

出向者の役割の大きな一つは、経営の現地化が図れるだけの人材育成にあるので、忙しい中でも、これだけは自ら時間をとって指導するということが大切と言える。

◆技術・技能の伝承

 続いて、人材育成の中で大切なのは、技術・技能の伝承ということだ。特に、専門職については、これが命であり、この力が競争力の源泉になる。方法としては、日本などへの計画的な派遣である。

設計者の育成、金型等の設計や加工等、内容にもよるが、場合によっては、2年、3年という計画的な取り組みが必要である。自社で生産する新製品の開発・設計や、自社で使う金型の設計や加工を経験させ、自らできる力をつけさせることだ。特に、日本などで研修させると、内なる国際化の遅れた日本本社の改革にもつながり、また、日本で研修することで日本語も話せるようになることから、その後の技術移管もスムースに進みやすくなるということもある。現地会社としては、お金を支払っても、日本などに研修に行かせることで、技術ノウハウの移転を図ることだ。また、ローカル人材にとっては、大変なモチベーションアップにもなる。大切なことは、毎年、送り続けるという継続性である。


◆出向者人材の育成

 最後に、出向者人材について一言述べておきたい。海外拠点における失敗の中で多いことの一つが出向者人材に起因する問題である。製造がわかるということだけで現地の経営責任者に登用したものの、資金繰り一つもわからないということでは、たちどころに経営危機に陥ることもある。実際、インドや中国などでは、売掛金の回収問題が多発している。利益しか見ずに、売掛金が未回収であることに気付きもせず売り続けたらどうなるだろうか。資金が回らなくなり倒産の危機を迎えることになる。海外拠点は単なる製造拠点ではなく、一つの独立した会社なのである。税務調査に入られることもあるし、人事制度そのものも、その国独自のものにせざるをえないことが大半だ。組合問題もそれぞれで異なる。これらに対応できなければ現地の経営はできない。海外展開にあたっては、製造がわかれば何とかなるというような安易な考え方で出向させると、出向者が苦労するだけではなく、経営そのものがおかしくなるということも多いということだ。事前に、経営の基本については、しっかりと理解させた上で出向させることが必須だ。

 筆者は、昨年、「ものづくり経営入門」という本を執筆したが、これは、会社の経営をする上で、最低限、理解しておいていただきたい事項をまとめたものだ。キャッシュフロー経営の推進の重要性等を解説した本はあるが、それを具体的に、どう現場で実践すれば良いかまで記載された本がなかったことから執筆することにした。海外出向前には、是非、一読していただければ幸いである。

余談になるが、先日、海外から帰任された方が、この本を購入され、コメントを下さった。「出向前にこの本を読んでおけば良かったというのが感想です。」という有難いコメントだった。


文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、海外事業を成功させるポイントは、現地事情を理解し、それを踏まえて、どう「現地化」するかにあるということで、「企画・開発、品質評価の現地化」の必要性について述べた。今回は、「人の現地化」ついて述べる。

◆出向者の現地化

先ず、人の現地化という点では、出向者が現地事情をどれだけ理解できているかが現地で仕事をする上で重要なポイントになる。その国の国民性、文化や宗教等への理解が無ければその国での常識が無いということになってしまうばかりか、それがために大きなトラブルに発展することもある。先日、タイのある拠点で、日本人出向者が、人事異動に関する説明をするのに、王様を引用して説明をした。説明の仕方の悪さもあり、これが不敬発言だとして、従業員から残業拒否、さらには、ストライキに入るということにまで発展した。最終、その出向者を帰任させることで収拾せざるをえなくなったのだが、その国の文化や習慣、ベースとなる考え方がわかっていないと、その国では許されない発言をしてしまい、このような事態を招くことにもなる。先ずは、その国で仕事をさせていただく以上、その国の文化や宗教を尊び、それを踏まえたオペレーションをしない限り、現地に根ざした経営はできないということだ。

◆経営の現地化・・・ローカルのやる気と定着視点でも重要

経営の現地化の一つの目的はコストである。日本人出向者の人件費は高い。現地給のみならず、日本国内給、また、海外での住居費や移動手段としての車代等、日本での人件費よりはるかに高い負担となる。合算課税なので、これらは海外会社が負担しなければならない。実際、ある赤字に陥っていた中国の日系企業では、出向者の半分を帰任させたら、すぐに黒字化したという例もある。また、ローカル企業とのコスト競争という視点で見てみれば、ローカル企業には出向者はいない。そことの競争を考えれば、多くの日本人出向者がいたのでは、コスト競争に勝てるはずがないのは自明の理だ。コスト力という点からも現地化を図り、日本からの出向者がいなくても事業運営ができるようにすることが大切なのだ。

また、開発の現地化の必要性は前回述べた通りだが、ローカル企業への販売拡大を図るという点では、営業の現地化も必須である。現地が一番わかっているのは、現地のローカルメンバーであり、最終商品へのニーズも、また、そのためにどんな部材を開発すべきか、また、どう売り込むべきかもローカルメンバーの方がよほど詳しい。営業の基本についての教育と育成ができていれば、現地事情がわからない日本人より、よほど、適切な提案営業ができるはずだ。2年前のタイで発生した洪水は、タイ国内だけではなく、日本も含めてサプライチェーン全体に多大の影響が発生した。この時、復興に向け、金型や治具、サーバーなどの搬出作業等は、ローカルメンバーが中心となってボートや潜水夫を手配して搬出した企業がほとんどだ。日本人出向者はどうしたらいいかと困惑するばかりで、どこにどう手配すればよいかもわからないという中で、ローカル人材の活躍はすばらしいものだった。
これらのことからもわかるように、その国でオペレーションする以上、現地化の推進が必須であり、そのための人材育成が重要ということなのだ。併せて、経営幹部へのローカル人材の登用は、ローカルのやる気につながり、キーパーソンの離職を抑制するという点でも極めて有効といえる。

◆ローカル人材の育成は出向者の役割

経営の現地化を図るためには、ローカル人材の育成が重要であり、それは出向者の大きな役割である。ところが、ローカル人材の育成が計画的に行なえていないケースが極めて多い。また、出向者の中には、そのことへの意識が薄いというケースもある。従って、先ずは、ローカル人材の育成は、出向者の責任ということを明示すると共に、「人の現地化計画」を策定して推進するということは有効な方法と言える。人の育成には時間がかかる。計画的な育成取り組みが必要不可欠なのだが、出向者の任期は3年から5年という会社が多く、出向者が交代した途端、人材育成がストップしてしまうケースも多いだけに、「現地化計画」を策定し、キー人材の計画的な育成を図ると共に、その進捗確認を、グローバル本社機能の中に入れておくことは有効な方法の一つと言える。出向者の交代時の引き継ぎ事項には、現地化計画の推進状況と、今後取り組むべき必要事項が明記され、人の育成についても、きちんと引き継がれることが大切ということだ。

ところで、現地化計画を策定したものの、具体的にどのようにしてローカル人材の育成を図っていくと良いだろうか。次回は、このローカル人材の育成方法の一例と、人材育成を担う出向者人材の育成について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回までは、海外で生産するにあたって、日本の生産方式をそのまま海外に持ち込んで失敗した事例を示しながら、現地事情を踏まえて、変えるべき点を明確にし、どう対策すべきかを解説してきた。これらの例から気付かれたと思うが、海外事業を成功させるポイントは、現地事情を理解し、それを踏まえて、どう「現地化」するかにあるということだ。今回からは、この点について述べていきたい。

◆商品企画の現地化

日本の製品は、品質も機能も良い。だから日本の製品を海外市場に持ち込めば売れるはずだと考える人は、流石に無いと思うが、現地のニーズや現地での使われ方を十分に把握されないまま、市場導入して失敗している例は多い。

先ずは、現地のニーズをどれだけ事前に把握できているかである。BtoCの商品であれば、適切な市場調査をすることで、どんな機能・仕様・デザイン・価格が求められるかは調べやすい。BtoBの材料や部品、ユニット等であれば、ターゲット顧客に事前にどんな製品なら採用してもらえるかをしっかりとヒアリングしておくことが大切だ。

新興国などでは、導入期にある商品の場合、購入できる価格をベースに、基本スペックと、わかりやすい訴求ポイントを満たした商品がヒットするケースが多く、日本で売れている高機能商品は全く売れないことが多い。わかりやすい事例としては、インドのエアコンだ。当初はインバーターエアコンなどは見向きもされなかった。セパレート型で、ガンガンと冷たい風が出るという現地独自仕様の商品が売れた。まさに、現地ニーズに合った価格とスペック、わかりやすい訴求ポイントを持ったものが売れたのだ。完成品メーカーからの進出要請で海外に進出した部品メーカーで、事前に聞いていた計画から大きく販売が落ち込んだというケースがあるが、これは明らかに完成品メーカーが事前に顧客ニーズを把握できていなかったことによるものである。

また、ある新興国では、日本で最新とされたデザインを導入したところ全く受け入れられず、ローカルのデザイナーがデザインした商品が大ヒットしたという例もある。これは、服装や住宅事情を含めて、ものに対する価値観やデザイン感覚が違うことに起因する。このように、市場が変われば、ニーズも違うのは当たり前のことであり、日本で売れているから海外の各市場でも売れるということにはならないということだ。すなわち、海外市場で真に海外のお客様に喜んでもらえる商品はどんなものか、現地に即した商品企画が必須ということであり、そのためには、商品企画の現地化がポイントになるということだ。

◆使われ方もマチマチ・・・使用条件がわかっていないと品質不良にもつながる品質基準の現地化

同じ商品でも、使われ方や使用条件は、その国によって異なる。実際、気温や湿度などは、国によって全く異なる。また、水質や電力事情、道路条件も異なる。日本と同じ条件というところはほとんどない。当然のことながら、品質基準は、使用条件によって変更されなければならない。しかし、この使用条件の違いが意外に的確に把握されていないケースが多い。わかりやすい例で説明しよう。洗濯機は、日本での使い方は汚れを落とすということに主眼が置かれる。しかし、新興国では、泥だらけの服を入れて洗うという使い方がされる。泥だらけの靴を洗うこともある。このような使われ方をする場合、品質基準はどうないといけないだろうか。泥が大量に入れられても問題ないという品質基準が満たされることが必要だ。泥は細かい砂や石なので、やすりと同じである。回転するものの中に「やすり」が入れられるということであり、耐摩耗性の基準を根本的に変えないと不良になってしまう。また、置かれる環境の違いも大きい。室内に置かれるか、室外に置かれるかで全く違う。塩分の多い水質のところであれば、錆への対策も必要になってくる。日本と海外とでの生産条件の違いのところでも触れたが、道路事情の悪いところであれば、振動試験の基準を変更する必要があるし、梱包仕様を変えないといけないケースもある。海外で商品を販売するということは、これら、現地顧客のニーズと共に、使われる環境、使い方すべてが熟知できていないと、適切な仕様、品質は確保できず、日本のメーカーであれば品質は良いという神話は、すぐに崩れることになる。どんな使われ方をされるのか、これは、現地のメンバーでないと把握することは難しいだけに、現地化が大切ということだ。

◆企画・開発・品質評価の現地化

これらのことからわかるように、真に海外で販売拡大を図っていくためには、企画・開発・品質評価の現地化が必要ということになる。これは、商品開発ということに留まらない。コストダウンを図る上で、現地調達化は必要不可欠だが、これら現地材料を使うためには、現地での使われ方を踏まえた品質評価や、現地材料を使える設計変更にも取り組んでいかないといけない。さらに、BtoB事業の場合、現地のローカル企業に売り込んでいくためには、現地で、これらに対応できる技術者の育成は必要不可欠になってくる。今、各国では、R&D拠点に対する税恩典のある国も多くなってきており、製造拠点に続いて、R&D拠点の設立に取り組まれている企業が急激に増えてきた。真にグローバルで成長拡大していくためには、企画・開発の現地化は必要不可欠であり、グローバル戦略では、単に製造拠点の海外展開ということだけではなく、グローバル戦略を実現するための鍵にもなる、企画・開発の現地化についてもしっかりとした絵を描いて推進していくことが大切と言える。

次回は、人の現地化について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回までは、海外で生産をする場合、日本の生産方式をそのまま持ち込むと失敗することがあるということ、また、その原因は日本と海外との生産条件の違いにあるということ、そして、そのような問題を起こさないためには、日本と海外とでの生産条件の違いを踏まえ、事前に生産に支障を及ぼすと考えられるリスクを整理し、事前にそれらリスクに対応した生産システムを検討することが大切ということを述べた。

1回目:http://jemcoblog.doorblog.jp/archives/31086068.html
2回目:http://jemcoblog.doorblog.jp/archives/32510794.html

今回は、これら生産条件の違いへの対応例を示すことにする。

◆人の入れ替わり対策

人に関する違いの中で多いのは、人の定着率の違い、言葉(含む多言語)の違い、識字率の違いがもっとも多い。第一回で紹介したタイでのワンマンセル生産を導入して失敗した事例はその代表例である。人の入れ替わりが激しいところでは、多くの時間をかけてトレーニングを行なうのは難しいということである。従って、一人で行なう要素作業数をいかに減らした工程設計にするかが重要となる。弊社のコンサルタントが指導したように、コンベア方式に戻したのは適切な判断なのだ。また、難しい技能を必要とする作業は自動機を入れることも検討が必要だ。一般的には、新興国では、人件費は日本と比較すると極めて安く、自動機より人による作業の方がはるかにコスト面からは有利だ。しかし、人の入れ替わりが激しいところでは、技能習得に時間がかかる作業については、自動機を導入することも検討することが必要になるということだ。

◆動画マニュアルの活用

また、識字率の低い国もある。このような国で生産する場合は、標準作業書をはじめとした各種のマニュアルを作成しても、内容が理解されないことになる。そのような中で正しい作業指導をするためには、文字を使わず、マニュアルを作る必要がある。基本的に、海外展開をする場合、筆者は動画マニュアルを作ることを推奨している。各種のマニュアルを現地の言葉に翻訳しても、専門用語もあることから正しく翻訳されないケースが多い。動画であれば、一連の作業の流れが理解でき、注意点や作業のコツを編集ソフトでマークや矢印等を入れることで伝えやすい。また、失敗した時にはどうなるか等も動画で示すことで、標準作業書だけでは記載しきれないことも表現できる。標準作業書に写真と共に注意点やコツを記載するよりも、動画の方が音を含めて表現できるので、伝えられる範囲は広い。特に、失敗した時や異常と場合はどうなるかの表現には、音も伝えられることは極めて有効だ。また、何回も動画を見ることで、標準作業のイメージトレーニングもでき、標準時間のイメージもつかめる。また、チェックシート等は写真や図で文字が無くてもわかるシートにすることが大切だ。

◆メンテナンス体制の構築

自動機等を導入する場合は、メンテナンス体制を確認しておくことが大切だ。現地では、すぐにメンテナンスできないケースは多い。補修部品の供給体制やメンテナンス業者がない場合は、自前でメンテナンス部品を適切に発注管理できる体制と共にメンテナンス要員の育成を、事前に行なっておくことが必要となる。筆者が診断をした東南アジアのある拠点では、日本と同じ搬送設備まで自動化した全自動化ラインを入れていた。立ち上げ時は、日本人が来て立ち上げたものの、その後、設備トラブルが多発し、全く生産ができない事態になっていた。これだけの自動化設備を導入したにもかかわらず、肝心のメンテナンス体制が全く築かれていなかったため、一台でも設備トラブルが発生すると、全部の生産が止まるだけではなく、工程仕掛品がすべて不良になっていたのである。実際、現地と日本との違いを踏まえれば、このような全自動のラインを導入するということはなかったはずだ。第一、搬送まで自動化したことで、搬送設備のトラブルで加工ラインまで含めてすべてのラインがストップするだけでなく、人件費から判断しても、このような全自動化はコスト面からも不利である。日本と海外とで、人件費の違いやメンテナンス体制の違い等を踏まえて検討されていれば、このような自動化ラインを導入するという判断はなかったはずだ。

これらの例のように、海外で生産するには、生産条件の違いを踏まえて、リスクを明確にし、それを踏まえた生産体制を築くことがポイントということだ。


海外で事業を展開するためには、現地の事情をいかに理解しているかが基本となる。これは、今回紹介してきた海外生産における生産条件の違いということのみならず、製品そのものに対する要求品質も異なれば、使用条件も異なるということであり、品質基準等も変えなければならないということを示している。


次回は、海外でオペレーションを進める上で重要となる「現地化」について述べることにする。

文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

前回は、日本の生産方式をそのまま海外に持ち込んで、生産できない事態に陥った事例を紹介した。今回は、そのような事態を招かないようにするには、どんな検討が必要かを述べることにする。前回ご紹介したタイ拠点でワンマンセル生産を導入して生産ができなくなった原因は、人の入れ替わりの多さという、日本とタイとでの生産条件の違いが原因であった。この事例からもわかるように、生産条件の違いを適切に把握し、それに対応した「ものづくり」にしないと、うまく生産はできないということだ。

 

変化点管理と同じ
日頃の生産を振り返ってみていただきたい。どの生産現場でも、変化点管理ボードがあり、「本日の変化点」については、生産前に確認しているはずである。生産の4Mの中の何かが変われば、不良の原因になる。従って、変化点を明確にし、それに対し、適切な事前の対策管理をしているはずだ。例えば、「人が変わる」ということであれば、作業手順が理解できているか、作業ポイントが理解できているか、正しい作業が標準時間内でできるか、作業した結果はどうか等を確認するはずだ。


日本と海外とでの生産条件の違いを明確にすることが検討のスタート
海外で生産する場合も、これと同じ検討がされていなければならないということ。すなわち、日本と海外拠点とで、生産条件として何が違うか「変化点」を明確にし、それを踏まえて、どんなリスクが想定されるかを出し、それに対応した生産システムを検討するということだ。変化点があるのに、それを無視して適切な対策を行なわなければ、当然、まともに生産することはできないからだ。

ジェムコでは、多くの企業の海外進出のご支援をしているが、海外での生産システムを検討する際には、先ず、日本と進出先とで、生産条件の違いをすべて抽出した上で、その違いから生産に支障を及ぼすと考えられるリスクを整理し、そこから、それらリスクに対応した生産システムを検討してもらうことにしている。また、進出エリアの検討でも、同様にエリア毎の違いを明確にして検討する。

それでは、日本と海外拠点とで、生産条件として、どんなことが違うだろうか。

例えば、人という点での違いの例をあげると、人の確保のしやすさ、人の入れ替わりの激しさ、識字率や学習レベルの違い、人件費の違い、宗教の違い、階級制度の有無・・・といったことがあげられる。実際、次の進出先として注目されている新興国では、識字率が低いところも多い。また、割り算ができなくて、能率や稼働率といった管理すべき数値が計算できないという事例もある。

同様に、生産する上での環境や条件の違いという点では、メンテナンス体制や、電力事情(含む電圧変動)、水の確保のしやすさ、水質状況や水質規制、温度や湿度、虫などの多さ、物流状況(道路事情)、廃棄物処理基準、地盤沈下の有無、水害の有無等が相違点としてあげられる。実際、道路事情が悪く、悪路が多いところでは、製品の箱が壊れたり、梱包形態が悪い場合は部材や製品の不良が発生するということもある。

このように、各国、各地域で、生産するにあたっての条件は違うということだ。これがわからないまま、また、この違いに対策しないままで、日本と同じ生産方式を導入したのでは生産がうまくできないばかりか、その国の環境基準違反ということさえおこしかねない。

次回は、これら生産条件の違いへの対策について解説したい。

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文責:ジェムコ日本経営 取締役 グローバル事業担当コンサルタント 高橋 功吉

 

海外への生産シフトが進む中で、日本の生産方式をそのまま海外に持ち込んでいるケースは多い。それで、問題無く生産できれば良いが、そうはいかないケースも多い。弊社のコンサルタントが支援をしたタイでの支援事例を紹介しよう。この会社は、組立産業で、日本では社内のものづくりの指導部隊が中心となって、ワンマンセル生産方式への変革を図り、大きく生産性向上を実現した。この成功を踏まえ、海外製造拠点にも、ワンマンセル生産への転換を図るという「ものづくり方針」を示し、その導入に向けて推進・指導をした。この指導のもと、タイの製造拠点でも、ワンマンセル生産を導入することになった。ワンマンセル生産を行なうにあたって、一人が多くの要素作業を行なうため、事前にトレーニング体制も構築し、全作業者にトレーニングも行ない一人で組立ができるようにしっかりと事前に訓練も行なった。このような事前準備も踏まえ、ワンマンセル生産は見事に導入できたのである。ところが、である。しばらくすると、全く、生産ができない事態に陥ったのだ。

 

人の入れ替わりが激しくトレーニングが追いつかない

生産できなくなった原因は、人の入れ替わりの激しさである。タイでは生産現場のかなりの部分は派遣社員を使っているケースが多い。当然のことながら、派遣社員は条件の良いところがあれば、すぐにやめてしまう。ワンマンセル生産を行なうためには、事前のトレーニングに多大の時間が必要であり、人がやめてから新たにトレーニングをしていたのでは間に合わない。早急に人を採用してトレーニングを行なうも、作業要素の多さもありトレーニング中にやめてしまう者さえある。人がやめるのに対し、補充が間に合わなくなり、何十もあるセルの屋台の多くが空いてしまい、ほとんど生産ができない事態に陥ったのだ。

現場では、教育ばかりに時間をとられ、生産できるようになるとやめてしまい、生産性向上で人件費の削減ができるどころか、逆に教育のための工数がとられ、人件費は上昇。何のためのセル生産なのかということにもなってしまったのである。

このような事態になり、相談を受けた弊社のコンサルタントは、すぐに、このワンマンセル生産をやめ、従来からのコンベア方式にし、バランスロス無く、いかに早く流すかを指導したのである。結果、品質も安定し、生産性の向上も図れ、計画通りの生産ができるようになったのである。

この会社を指導したコンサルタントは、日本国内の製造拠点でも、多くの企業でセル生産等の導入も指導してきたベテランである。しかし、同時に、在タイ企業の支援経験もすでに18年というタイ事情を熟知したコンサルタントである。彼は、タイでは、セル生産導入の難しさは熟知しており、人が入れ替わることを前提として、要素作業数の少ない生産システムの構築を指導している。世界一律での指導ではダメなのだ。

セル生産が有効なのは、人の入れ替わりが無いという場合であり、生産条件が異なれば、それに応じた生産システムを考えなければならないということだ。この企業では、日本のものづくり指導部隊のメンバーが、この基本が理解できていなかったことから、このような問題が発生してしまった。

次回は、このような生産条件が異なる海外での生産を成功させるために、事前に検討すべきポイントについて解説する。

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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/SEMINAR/20130725/294241/

文責:ジェムコ日本経営 常務執行役員 宮北大嗣
◆派遣雇用に注意、同一労働同一賃金が原則、直接雇用の必要性も 

中国での人件費の高騰問題は、中国で操業する日系各社にとって、事業戦略の見直しを迫っているが、それに追い討ちをかけるように、昨年
20121228日に改定公布され、201371日から施行された中国労働契約法の改定は、さらなる人件費負担の増を強いるものになる。

この改定では、派遣形態の雇用の規制を強化し、通常の直接雇用契約の抜け穴として派遣雇用が使用されることを防ぐことに主眼が置かれており、これらへの対応は、人件費の増に結び付くと言える。

中国労働契約法の主な改定箇所は次の3点。

1.労務派遣業務の経営要件が厳格化(第57条)

2.同一の労働をした場合、派遣か直接雇用かで賃金を差別してはならない(第63条)

3.直接労働雇用が原則であり、労務派遣が認められる場合を限定(第66条)

この中で、中国に進出している日系企業が影響を受けるのは「第63条 同一労働同一賃金原則」と「第66条 労務派遣雇用の限定」の改定である。
63条 同一労働・同一報酬の徹底

被派遣労働者は雇用単位(派遣先)の労働者と同一労働・同一報酬の権利を有する。

雇用単位(派遣先)は同一労働報酬の原則に照らして、被派遣労働者と当該単位の同種の職場の労働者に対し、同一の労働報酬配分方法を実行しなければならない。

以下省略。

下線部分が新たに追加された箇所である。

工場の現場のように、同じラインで全く同じ成果が出る業務であれば同一労働は分かりやすいが、営業や創造的労働である設計業務などの場合において、同一労働かどうかを判別する基準を設けることは、正直極めて難しい。上記のように同一労働・同一報酬の原則が明文化された中国では、被派遣労働者と直接雇用労働者との報酬格差をつけるには、差をつける合理的な理由が必要だ。もし、合理的な理由が説明できない場合には、同一労働・同一報酬原則に違反しているということから、不合理な未払い賃金が存在するという訴訟を起こされるリスクが生じる。これを回避するために、被派遣労働者の賃金を上げざるを得ないことになる。
66条 労務派遣雇用の限定

労働契約雇用は我国の企業の基本的雇用形式である。労働派遣雇用は補充的な形態であり、臨時的、補充的または代替的な職務においてのみ実施することができる。

前項で規定する臨時的な職務は、存続期間が6ヶ月を超えない職務、補充的な職務は主要業務の職務にサービスを提供する非主要業務、代替的な職務は雇用単位(派遣先)の労働者が学習、休暇などの原因で職場を離れて業務に従事できない一定期間内において、その他の労働者に代替できる職務である。

雇用単位(派遣先)は労務派遣雇用人数を厳格に抑制し、雇用者総数の一定比率を超えてはならない。具体的な比率は国務院労働行政部門が規定する。
下線部分が新たに追加された箇所。

改定前の第66条は「労務派遣雇用は、通常は臨時的、補充的あるいは代替的な職務において実施する。」となっていたが、今回の改定で「通常は」の言葉が削除された。

今までは第66条は緩やかに運用されていたが、今回は厳格に運用される懸念があり、特に「補充的な職務」の解釈が問題になる。バックオフィスの業務に限らず、営業のような主要業務でも派遣会社を利用している会社は極めて多く、今後人材を確保し、現在の業務を維持するためには、直接雇用に変える必要もでてくる。

いずれの改定についても、今後通達される労働行政部門や地方政府関係機関からの指針に注意を払う必要があるが、派遣雇用を活用するということが難しくなってきていることも踏まえ、これらへの対応による人件費負担増も踏まえた対応策の検討がさらに必要となってくる。

各社の中国拠点戦略の見直しはさらに加速するものと思われる。 

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